日々の記録

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遠い唇北村薫さんの短編集、「遠い唇」を読み終えました。

この本には、表題作である「遠い唇」から始まり、「しりとり」「パトラッシュ」「解釈」「続・二銭銅貨」「ゴースト」「ビスケット」の7作が収録されています。久々の北村作品だったせいか、年末の忙しい時期にほっこりできる内容で、とても心が落ち着きました。

「遠い唇」は、主人公が学生時代を回想しつつ、そこで渡された暗号を解読するお話です。ほろ苦いコーヒーを飲んだ後のような余韻のあるお話でした。

続く「しりとり」も、亡くなったご主人からの暗号とも思える俳句を解読するお話です。初々しい青春時代の恋と、そこから歳月を重ねた夫婦の味わいが感じられるお話でした。

「パトラッシュ」は、まずそのタイトルに驚かされました。主人公の女性が、恋人のことを「フランダースの犬」のパトラッシュのようだと思ったところからきています。これも推理作品かなと思ったら、これはちょっと軽めのラブストーリーでした。

そして驚いたのが、「解釈」です。物語の始まりはいつもの北村作品風なのですが、途中から地球外生命体が登場して本から地球の文化を知ろうとするSF作品でした。作品の雰囲気は、星新一さんのショートショートや藤子・F・不二雄さんのSF短編を思わせるものがありました。

「続・二銭銅貨」は、江戸川乱歩の名作「二銭銅貨」に元ネタを提供した者がいたというお話でした。お話はなかなか面白かったですが、私自身が江戸川乱歩の作品にあまり詳しくないので、物語の一番面白いところを見逃しているような気がします。

「ゴースト」は、「あとがき」によれば「八月の六日間」に登場した女性編集者の心を描いた習作だそうです。「八月の六日間」は山登り小説でしたが、この短編では主人公がひたすら仕事に追われているのが、現実の忙しさと結びついてしまい、今ひとつ楽しめませんでした。(^^;

最後は「ビスケット」です。なんと「冬のオペラ」で登場した"名探偵"巫弓彦が、18年ぶりに活躍するお話でした。
「冬のオペラ」は、はるか昔に一度読んだだけの作品なので、細かな内容は完全に忘れていましたが、人知を超越した謎を解き明かす"名探偵"という設定だけは覚えていました。

この作品では、かっては不動産会社の事務員だった事件の記録者・姫宮あゆみが、作家として活躍するようになっていました。そんなあゆみが、とある大学で行われるトークショーに出演することになりました。そこであゆみは、再び殺人事件の現場に立ち会うことになってしまうのでした。

「冬のオペラ」に収録された作品が書かれたのが、1992年。それから大きく世界が変わり、今ではネット検索でどんなことも手軽に調べられる時代になりました。そんな時代には、超人的な発想の飛躍で事件を解決する"名探偵"の出番は、失われてしまいます。便利な時代になった反面、失われてしまったものの寂しさを感じました。
覆面作家は二人いる (角川文庫)このところ少し堅い本を読むことが多かったので、少し気楽に読める本が読みたくなりました。そうして手が伸びたのは、北村薫さんの覆面作家シリーズでした。

物語の語り手であり、ワトソン役でもある岡部良介は、世界社という出版社に務める編集者です。その「推理世界」という雑誌の新人賞に、不思議な応募作品が送られてきたところからお話が始まります。奇妙な内容なのに、どこか惹かれる作品を書いた作者のもとに、良介が訪れることになりました。

新妻千秋というその女性の家は、執事までいる超お金持ちのお屋敷でした。そして、対面した千秋は、浮き世離れしたようなお嬢様でした。ところが、このお嬢様にはもう1つの顔がありました。なぜか屋敷から一歩外に出ると、それまでの楚々とした美女から、行動的で活発な女の子に変身してしまうのでした。

独特の物の見方をする千秋には、日常のちょっとした謎を解決できる推理力がありました。こんな千秋と良介が、さまざまな事件を解決していく、コミカルなお話です。

第1作となる「覆面作家は二人いる」には、3つの短編が収録されています。良介と千秋の出会いを描いた「覆面作家のクリスマス」、とある誘拐事件を解決することになる「眠る覆面作家」、謎の万引き事件を解決する「覆面作家は二人いる」の3本です。

どのお話もサクサク読めて楽しいですが、3つから1つを選ぶなら「眠る覆面作家」です。ネタバレになるので、あまり詳しくは書けませんが、そのクライマックスで千秋が言った「世の中にはない方がいいことがたくさんあるけれど、哀しいことにそれがある。だから、いろんな人達がその哀しさに立ち向かっている」という言葉が、ずっと心に残っています。

他の北村さんの作品でもそうですが、読んでいて時折こういう言葉に出会います。それを読んで温かい気持ちになって、世の中いろいろあるけれど背筋を伸ばして生きていこうと思えます。(^^)
中野のお父さん北村薫さんの「中野のお父さん」を読み終えました。

体育系の編集者・田川美希には、定年間近の国語教師の父がいます。この作品は、美希が出会った謎を父が解決する形式の短編集です。作品の雰囲気は、覆面作家シリーズよりもう少し現実よりのライトな作品といった感じでした。

新人賞に送られてきた原稿をめぐる「夢の風車」から始まり、作家の私信の謎を推理する「幻の追伸」、雑誌に掲載される写真の謎を解く「鏡の世界」、担当作家さんと落語家さんの対談で知った俳句の謎を追う「闇の吉原」、マラソン大会に参加した時のちょっとした事件を描いた「冬の走者」、献本された本の謎解きの「謎の献本」、美希の雑誌の愛読者から聞いた殺人事件にまつわる話の「茶の痕跡」、宝くじ売り場で起きた事件の真相が明らかになる「数の魔術」の8本の作品が、この本には収録されています。

どのお話も軽くするするっと読める感じで、謎の内容もそれほど難しいものではありません。8本の中では、「闇の吉原」は円紫さんシリーズの1作として書かれてもいいような内容だと思いました。本好きとして共感したのは、「茶の痕跡」でした。私自身、本の扱いはていねいにする方なので、ちょっとした汚れが気になる、それを理由に新しい本と交換してくれと出版社に頼んでしまう気持ちはわかります。・・・もっとも、私自身は乱丁・落丁以外で本を交換してもらったことはありませんが。(^^;

博識で文学的な香りが楽しめる北村作品もいいですが、時にはこうして肩の力を抜いて楽しめる作品もいいですね。
このシリーズ、まだまだ続けられそうですので、続編も発表していただけるとうれしいです。
書かずにはいられない: 北村薫のエッセイ北村薫さんのエッセイ集、「書かずにはいられない」を読み終えました。この本は、1990年〜2005年までの間に北村さんがあちこちに書かれた文章を集めた本でした。

この本を図書館で借りた時、てっきり北村さんがご自身の創作について語られている本だと思い込んでしまいました。(^^;
なので、いろいろなエッセイを集めた本だとわかった時は、ちょっとがっかりしました。それでも、この本の中で北村さんが薦められている本や落語は面白そうだと思いました。

収録されている文章は、ちょうど日本でインターネットが普及する前から、普及していく頃のものです。北村さんはワープロを使って作品を書かれていたのが、製造中止になると知って予備の機械を買い集めるエピソードに時代を感じました。それと共に、北村さんがワープロで作品を書かれているのが少し意外な気がしました。読者の勝手な思いこみですが、何となく北村さんは、特製の原稿用紙に愛用の万年筆で作品を書かれているイメージがあったので。(^^;

内容的には、やはり本のことが多いですが、文章のところどころに普段の北村さんの生活が垣間見える部分があって興味深かったです。ただ、同じ内容が別の文章の中でも重複して出てくる箇所があって、それが少し気になりました。こうして1冊の本にまとめると、同じものを2回読まされることになるわけで、読者としては何となく損をした気持ちになります。(^^;
太宰治の辞書北村薫さんの「太宰治の辞書」を読み終えました。この作品、もう続きはないとあきらめていた「円紫さんシリーズ」の続編でした!(^^)

この本には、「花火」「女生徒」「太宰治の辞書」の3作品が収録されていました。「花火」と「女生徒」は小説新潮に発表された短編で、「太宰治の辞書」は書き下ろしでした。

以下はネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

「花火」は、"私"がピエール・ロチの日本での手記と、それを元に書かれた芥川龍之介の「舞踏会」とのつながりを追う作品でした。作品の内容より何より驚いたのは、お話の世界が前作から20年くらい後の世界だったことです。"私"も編集者としてキャリアを重ね、旦那さんがいるばかりか、中学生の息子がいることがわかって、さらに驚きました。あまりに驚きが強かったので、呆然としている間にお話が終わってしまいました。(^^;

「女生徒」は、太宰治の同名の作品をテーマにした作品でした。「花火」で呆然となった後、この「女生徒」では"私"の大学時代の友人・正ちゃんが登場します。時は経過していますが、"私"と正ちゃんの昔と変わらぬやりとりに、ちょっとだけほっとしました。でも、全てが同じわけではなく、そこかしこに時の流れを感じさせられました。

と、ここまで読んでたいへんなことに気がつきました。「花火」にも「女生徒」にも、"私"の師匠である円紫さんが登場していません。そして今回の本が、東京創元社からではなく、新潮社から発売されていることに、この時ようやく気づきました。(^^; 続編を見つけた喜びで、すぐにレジに向かったので、どこから発売されているかは全くチェックしていませんでした。

まさかこのまま・・・と心配になりつつ「太宰治の辞書」を読んだら、ようやく円紫さんが登場してくれて安心しました。真打ちはやはり、最後に登場するものなんですね。(^^;
この「太宰治の辞書」では、"私"は円紫さんからある謎を投げかけられました。先に読んだ「花火」や「女生徒」とうまく内容がリンクしているのがうまいなあと思いました。

というわけで、本当に久しぶりにシリーズの新作を読むことができて、本当にうれしかったです!
東京創元社ではなく新潮社から発売されたことで、推理色が薄まったのが少し残念でした。できれば同じ東京創元社からの続編も読んでみたいなあと思いました。

今回ちょっとだけ気になったのは、太宰や芥川など、他の作品からの引用が多かったことです。それらの作品の文章は素晴らしいと思うけれど、個人的に好きなのは北村さんの文章なので、もっと北村さん自身の文章が読みたかったです。

そうそう。それから新潮社は商売がうまいなあと思ったのは、巻末の書籍案内が作中で言及されているものを中心に構成されていたことです。これを見ていると、"私"が読んだ本を自分で確かめてみたくなるんですよね。
・・・で気がつければ、新潮文庫で発売されている太宰と芥川の本を何冊か買っていました。(^^;
八月の六日間北村薫さんの「八月の六日間」を読み終えました。女性編集者が山登りをするお話です。

この本を読む前に、山登りの小説だと知って、北村さんと山登りが今ひとつ結びつかず、どんなお話になるのか恐る恐る読み始めました。最初こそ戸惑いましたが、そこはやはりいつもの北村薫ワールドが待っていてくれて、一安心しました。

この本には、表題作を含めて5本の連作短編が収録されています。主人公の女性編集者の名前は明らかにされておらず、"わたし"としかわかりません。北村さんで"わたし"といえば、円紫さんシリーズの"わたし"を思い浮かべましたが、この作品の"わたし"はそれとは別人だと感じました。

友人に勧められて、"わたし"は30代から山歩きを始めました。そして今では、1人で山に行きます。現実の世界でも、このところ山ガールなる存在が注目されているようですが、"わたし"もそんな1人みたいです。
物語は山歩きの準備から始まり、ゆるゆると進んでいきます。どんなものを山に持って行くのか、けっこう詳細な描写もあって意外でした。もしかして、北村さんも山歩きをされるのかな。

そうして主人公は、いろいろなルートを歩きます。その裏側で、ゆったりと時が流れているのがいい感じでした。最初は副編集長だった主人公は、お話の途中で編集長へと出世します。過去には上司とやり合ったこともあるけっこう強い女性みたいですが、出世しても山歩きは続けています。

これまで登山小説というと、夢枕獏さんが描かれるようなストイックな世界というイメージがありましたので、普通の人でもがんばればいけそうな登山は逆に新鮮でした。基本的にインドア派の私ですが、この本を読んでいたら山歩きがしてみたくなって困りました。(^^;

最後に、作中で富山にあるアニメ制作会社に主人公が立ち寄ろうかと思う場面がありますが、これってP.A.WORKSのことですよね。普段アニヲタで得することはあまりないですが^^;、ここを読んだ時はちょっと得した気分でした!
朝霧 (創元推理文庫)「六の宮の姫君」を読み返して以来1年ぶりに、ようやく最終巻である「朝霧」を読み終えました。

これまでのシリーズでは大学生だった"私"ですが、この「朝霧」では社会人となって出版社に勤務し始めます。そのせいか、これまでのシリーズと比べると、時間の流れが速くなったような気がしました。

さて、この本には「山眠る」「走り来るもの」「朝霧」の3作品が収録されていました。
「山眠る」では、卒論の提出を終えた"私"が、社会人となってゆく時期の物語です。物語のテーマになっているのは俳句なのですが、私自身に詩心がないせいか今ひとつ作品にのめり込むことができませんでした。

2本目の「走り来るもの」は、リドルストーリーを扱ったお話です。"私"が社会人となって、数年経った頃の物語です。このお話は、物語本編も面白いですが、それ以上に心に残ったのは職場の先輩が"私"に教えてくれた言葉です。「本屋が稼ぐのは、売れない本のため。儲かったら、これだけ損できると思うのが本屋さん」
損するのがわかっていても出さなきゃいけない本のために稼ぐ。文化を守り、育てるというのはこういう出版業界の心意気なんでしょうね。

3本目の「朝霧」は、本のタイトルともなっているだけあって、3作の中では一番推理色が強いものでした。
ある日、"私"は祖父の日記を手に入れました。それを読み進んでいくうちに、"私"は祖父が学生時代に下宿していた家の娘さんからもらった暗号文を見つけました。昭和初期に書かれたその日記の暗号を、現在の"私"が円紫さんの力を借りて見事に解き明かしました。

この円紫さんと"私"のシリーズは、この先もまだ続けられそうなのですが、続きが出ないのが寂しいような、読者に想像の余地を残したここで終わるのが正しいような複雑な気持ちです。"私"の恋愛や結婚まで読みたいような気もすれば、そこまで描くと別の作品になってしまうような・・・。

ともあれ、このシリーズがこの先も続くにせよ、続かないにせよ、このシリーズはふと何かの折に思い出して、何度も読み返したくなる魅力と深みを持った作品だと思います。(^^)
自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書)北村薫さんの「自分だけの一冊 北村薫のアンソロジー教室」を読み終えました。

本にはいろいろな楽しみ方があります。読む楽しみ、集める楽しみ。そんな楽しみの1つとして、この本では北村さんが自分だけのアンソロジーを編む楽しみを紹介されています。

この本は、カルチャーセンターで北村さんが講義された内容を本の形にまとめたものです。そのせいか、いつもの北村さんの小説を読むのとはまた違って、より作者である北村さん自身の人柄などを感じ取ることができました。
小説を読んでいてもそうですが、北村さんの博識さや教養の深さには本当に驚かされました。この本を読んでいると、北村さんの円紫さんシリーズに登場する"わたし"と北村さんが精神的に同じものなんだと改めて思いました。

それから、もう1つ驚いたのは北村さんが子供の頃からアンソロジーを編まれたり、読書の記録をつけられていたことです。そういった記録が、今も手元に残っていることも驚きでしたが、部分的に写真で紹介されていたそれらの記録の几帳面な内容がまた驚きでした。
鷺と雪北村薫さんの直木賞受賞作、「鷺と雪」をようやく読むことができました。

これまでは北村さんの本は、図書館で借りにくいということはなかったのですが、この作品は直木賞を受賞したせいか、貸し出し予約数が凄くてようやく今頃になって読むことができました。(^^; 買ってしまおうかとも思ったのですが、ハードカバー1冊の値段だと、文庫本2冊が買えると思うと、なかなか思い切ることができませんでした。

街の灯」から始まったベッキーさんシリーズも、この作品で3作目になります。

第1作の「不在の父」では、とある子爵の失踪事件の謎を英子とベッキーさんが解き明かすことになりました。
5年前に行方不明になった子爵。その姿を英子の兄が、浅草のいかがわしい界隈で見かけたというのです。それは本当に失踪した子爵本人なのか!? そして、どんな方法を使って子爵は多くの人の前から神隠しのように姿を消すことができたのか!? その謎解きも興味深かったですが、それ以上に英子たちの日常のやり取りが面白かったです。

第2作「獅子と地下鉄」では、老舗のお菓子屋の坊ちゃんの謎の行動を英子とベッキーさんが解決しました。今回は珍しく、英子自ら調査に乗り出します。そのお転婆が祟って、ピンチに陥ったりもしますが、ベッキーさんの機転で窮地を切り抜けるのでした。

第3作が、本のタイトルにもなった「鷺と雪」です。今回は、英子が能見物に出かけたり、修学旅行に出かけたりと、今まで以上に移動が多いお話でした。そんな中、英子は友人の千枝子が失神する現場に居合わせました。それが縁となって、英子は千枝子から海外に出かけているはずの婚約者が写っていたという不思議な写真を見せられるのでした。
事件の謎は、例によってベッキーさんがあっさり解決しました。しかし、この話の面白さは、事件よりもその後に起こった歴史的な出来事と英子の関わりかもしれません。
六の宮の姫君 (創元推理文庫)北村薫さんの円紫さんシリーズ第4弾、「六の宮の姫君」を読み終えました。

主人公の"私"も大学4年生になりました。卒論の題材を考えていた"私"は、芥川をテーマに選ぶことに決めました。そんな時、"私"はふとしたきっかけでみさき書房という出版社でアルバイトを始めることになりました。そこで偶然、文壇の大御所と出会うことができた"私"は、その大御所が聞いた芥川龍之介が「六の宮の姫君」に対して語った不思議な言葉を聞かされたのでした。

その謎を解き明かすため、"私"はさまざまな文献にあたり、徐々にその真相へと近づいてゆくのでした。今回、円紫さんが探偵役として答えを明らかにするのではなく、あくまで"私"自身が自分の力で真相に到達するという展開が面白かったです。

ただ、芥川龍之介や菊池寛の作品やら書簡、随筆などが随所に登場するので、途中で小説ではなく学術書を読んでいるような気分になりました。(^^;
しかし、"私"の日常を取り巻く描写も楽しいですし、一歩一歩"私"が真実に近づいてゆく様子を楽しむことができる作品でした。
秋の花 (創元推理文庫)円紫シリーズ第3弾、「秋の花」を読み終えました。

これまで様々な謎を扱ってきた円紫シリーズですが、人が死ぬお話はありませんでした。シリーズ初の長編のこの作品では、"私"の知っている知り合いの死が初めて描かれました。
夜の蟬」にもちらっと登場した2人の女子高生、津田真理子と和泉利恵。2人は幼い頃からの親友でした。しかし、ある日"私"は、その1人津田真理子が文化祭の準備中に、学校の屋上から転落して死んだことを知ったのでした。

津田さんの死は、事故だったのか自殺だったのか。そして、1人残されて抜け殻のようになってしまった和泉さん。そんな2人の高校の先輩でもあり、2人と同じく生徒会の役員をしていた"私"は、ふとした出来事をきっかけに事件に深く関わることになるのでした。

きっかけは、"私"の家のポストに投函されていた1通のコピーでした。それは、なんと死んだ津田さんが使っていた政経の教科書のコピーだったのでした。しかし、津田さんが持っていたその教科書は、津田さんのお葬式の時に故人の亡骸と一緒に埋葬されたはずでした。そのコピーがなぜここにあるのか!?

ごく当たり前の日常を過ごしつつ、事件と関わった"私"は、とうとうその謎を円紫さんに相談することになりました。そして円紫さんは、この謎を例によって鮮やかに解いてみせたのでした。

お話の結末は暗いですが、そのラストは余韻があり、読者に深く考えさせる結末だったと思います。
読んでいる途中ではっとさせられたのは、雨に濡れた利恵を"私"が助けた場面でした。そこで利恵は、淡々と真理子との思い出を語るのですが、そこに親友を失った利恵の凄まじい悲しみが感じられました。

他のシリーズと同じく、文体にも味わいがあり、推理小説というよりは文学作品に近い雰囲気が感じられる作品だと思います。とはいえ、あまり堅苦しさはありませんので、未読の方にはぜひ一読していただきたい作品です。
夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)円紫さんシリーズ第2弾「夜の蟬」を読み終わりました。

"私"と円紫さんが活躍シリーズは何冊も発売されていますが、私は物語と推理のバランスの良さなどから、この「夜の蝉」が一番好きな作品です。シリーズ2作目となるこの作品では、私を取り巻く環境や人間関係がより一層生き生きと描き出されています。推理小説としても充分に面白いのですが、それ抜きでも"小説"としての面白さに溢れた本だと思います。

この本には、「朧夜の底」、「六月の花嫁」、そして表題作の「夜の蝉」の三編が収録されています。
「朧夜の底」では、"私"は友人の高岡正子が参加している創作吟を観に出かけます。そこでちょっとしたいたずらを正子からされた"私"は、正子のバイト先へと出かけてゆき不思議な事件を知ることになるのでした。見えない犯人の自覚のない悪意が、読後も印象に残るお話でした。

「六月の花嫁」では、もう一人の友人・庄司江美に誘われて、お金持ちのお嬢様たちと別荘に泊まることになるお話です。そこで"私"は、チェスの駒が冷蔵庫の中にしまわれているという不思議と遭遇することになりました。ここでは円紫譲りの推理力を発揮して、"私"が探偵役を務めることになりました。事件そのものは他愛ないものでしたが、"私"から事件の顛末を聞いた円紫さんは、その裏に隠された思いを的確に見抜くのでした。

表題作の「夜の蝉」は、"私"とお姉さんの関わりを描いたお話です。既に社会人のお姉さんには、付き合っている恋人がいたのですが、このところ恋人とうまくいっていません。そんな時、お姉さんは奇妙な事件に遭遇したのでした。"私"が見抜けなかった事件の真相を、これまた円紫さんが見事に解いてくれます。
この作品は、謎解きの楽しさだけでなく、大人の恋の苦さや姉妹の間の微妙な感情の機微が描かれていて、深みのある作品に仕上がっていると思います。
空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)たぶん10年ぶりくらいに、北村薫さんの円紫さんシリーズの第1作「空飛ぶ馬」を読み返しました。

女子大生の"私"は、「織部の霊」のお話をきっかけに、落語家の円紫さんと知り合いました。"私"自身、以前から円紫さんのファンだったのですが、知り合った円紫さんは落語の他に、もう1つの特技を持っていました。それは、些細な出来事から物事の本質を見抜いてしまう、探偵のような洞察力でした。
円紫さんと親しくなった"私"は、日常の中で遭遇した不思議な出来事を、いつしか円紫さんに相談するようになっていくのでした。

この本には、「織部の霊」の他に「砂糖合戦」「胡桃の中の鳥」「赤頭巾」「空飛ぶ馬」の合計5編の短編が収められています。この中で印象に残ったのは、一見何気ない行動の裏側に、陰湿な悪意が顔をのぞかせる「砂糖合戦」、童話をモチーフにしながらも事件が解決された時に日常に隠されたドロドロが姿を現す「赤頭巾」でした。

それでも、作品全体の雰囲気がほのぼのとした温かいものに感じられるのは、最終話の「空飛ぶ馬」が心温まるエピソードだったことと、"私"の日常描写がほのぼのとして微笑ましいものだからだと思います。

この作品、本編の小説もいいのですが、それと同じくらい雰囲気があっていいのが、高野文子さんが描かれた表紙絵です。"私"がちょっと体をひねって立っている、それだけの絵なのですが、それだけで作品の雰囲気が伝わってくるんですよね。
さらに凄いのは、続くシリーズでも"私"が立っているポーズは同じで、ただ髪型や服装が変わり、じょじょに"私"の成長が楽しめるようになっていることです。
街の灯 (文春文庫)「玻璃の天」が面白かったので、英子とベッキーさんが登場する第1作「街の灯」を読んでみました。

この作品では、「玻璃の天」と比べるとベッキーさんの役割が少ないのが残念でした。謎を解決するヒントは与えてくれるものの、謎解きはあくまで英子が行うという構成でした。

「玻璃の天」と同じく、この作品にも3編が収録されていました。第1作の「虚栄の市」は、英子とベッキーさんの出会いを描いたお話でした。昭和初期という年代にもかかわらず、女だてらに運転手という仕事を選んだ別宮を、英子はサッカリーの「虚栄の市」の主人公・ベッキーになぞらえて、密かにベッキーさんと呼ぶことにしました。
そして、ベッキーさんの助言を得て、英子は2つの場所で起こった死亡事件の関連性に気がつくのでした。

第2作「銀座八丁」は、銀座を舞台として暗号がやり取りされるお話です。3作の中では、この作品が一番面白かったです。
そして、第3作「街の灯」は軽井沢の別荘でのお話です。そこで友人から映画の上映に招かれた英子は、その家の家庭教師が死亡する事件と遭遇しました。家庭教師の死は、殺人ではありませんでしたが、何となく後味の悪い作品でした。

元になったベッキーさんがどんな女性なのか気になったので、サッカリーの「虚栄の市」も少しだけ読んでみましたが、英子が感じたように「嫌なところはあるけれど不快な思いは残らない」とは思えませんでした。(^^;
虚栄の市〈一〉 (岩波文庫)

それから、巻末にあった作者へのインタビューで、北村さんがワープロを使って執筆されていることを知った時には驚きました。なぜか、この方は絶対に手書きで執筆されていると思い込んでいたので・・・。(^^;
シャープの書院を愛用されているようですが、ワープロ専用機が姿を消してしまった今、どんな環境で執筆されているのかちょっと気になりました。
玻璃の天「空飛ぶ馬」の円紫シリーズ、覆面作家シリーズなどで有名な北村薫さんの作品を久しぶりに読んでみました。

この作品の舞台は昭和初期。主人公は華族のお嬢様で女学生です。探偵役を務めるのは、お嬢様の運転手の女性・別宮さんことベッキーさん。
日本が開戦に向かおうとする時期を舞台としながらも、相変わらずの品があって凛とした美しい文章に、たちまち作品の引き込まれました。

本書の前に「街の灯」という主人公の英子とベッキーさんとが登場する最初の物語があるようですが、そうとは知らずに読み始めてもこの本からでも十分に楽しめる内容でした。
この本には3本の作品が収録されていましたが、どれもそれぞれに趣向が凝らされていて面白かったです。

1作目の「幻の橋」では、過去の経緯から断絶状態だった家系の娘と息子が、恋をしてしまったことから物語が始まります。恋する2人の様子は、まるでロミオとジュリエットです。
そこに、英子が関わってベッキーさんと共に、2つの家が断絶することになった真相を解き明かしてくれます。

2作目も、恋する男女のやり取りに英子が関わることになりました。この作品では、暗号が登場するのですが、日本の古典に疎い私には謎解きのとっかかりすら思い浮かびませんでした。それでも、ベッキーさんのヒントを元に、隠された文章を英子が解き明かすのは面白かったです。

3作目は、もしかしたら「街の灯」とも関連があるお話なのかもしれません。
ふとしたことから、若手の実業家と風変わりな建築家と知り合った英子は、その建築家が設計したという屋敷に招かれることになりました。
そこである事故が発生するのですが、英子はそれが事故ではないのではないかと思いつくのでした。

3作それぞれに面白かったですが、一番印象的だったのは1作目のお話です。いくつかの謎が作品内に出てきますが、小さな謎がほどけて大きな謎の答えが見えてくる構成には読み応えがありました。