日々の記録

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ヒートアイランド (文春文庫)久しぶりに垣根涼介さんの「ヒートアイランド」を再読しました。

この後、「ギャングスター・レッスン」、「サウダージ」、「ボーダー」と続いていくシリーズの第1作です。
渋谷のストリートギャング雅を束ねるアキは、相棒のカオルと共に血の気の多い若者を集めて戦わせる興業をしていました。アキとカオルのコンビは絶妙で、荒事はアキが担当して、経理などの実務面はカオルが担当していました。

そんな2人の配下のチンピラが、思わぬ大金を持ち込んだことから、やっかいなトラブルを抱え込むことになるのでした。
その金は、裏金を専門に狙うプロの分配金の一部でした。事件の被害届が出てないことから、アキたちはそれが危ない筋の金だということに気がつきました。

金を奪われた男は、他の仲間に、その金を取り返してくれるよう頼みます。そして仲間の柿沢と桃井が、大金の行方を探り始めます。アキたちがこの物語の表の主人公だとすると、柿沢たちは裏の主人公といった感じです。荒さや粗雑さ未熟さが目につくアキたちと、徹底してプロフェッショナルな柿沢たちとの対比も面白いです。

金の行方を追うのは、柿沢たちだけではありません。柿沢たちに大金を奪われたヤクザも、自分たちの面子に賭けて大金を取り戻そうと動き始めます。さらにアキたちの商売を知った別のヤクザが、アキたちの稼ぎを巻き上げようとします。

状況を打開するために、アキはある思い切った作戦に出ます。この作戦の巧妙さと、予想外の勢力の乱入、アキとヤクザの駆け引きが見所です。後半の物語のスピーディーさは、何度読み返しても面白いですね。(^^)

物語の中で印象的なのは、アキとカオル、柿沢と桃井の2つのコンビです。柿沢の過去はほぼ不明ですが、アキとカオル、桃井の過去には引き込まれるものがあります。特に大好きなのが、桃井が柿沢と仲間になるまでのエピソードです。

車のチューンショップを営む桃井は、利益よりも技術を優先する姿勢が災いして、店じまい間近の状況でした。そこに柿沢が、自分の愛車のメンテをして欲しいと依頼してきます。その時に柿沢が、桃井に言ったセリフが大好きです。
自分のメンテ料金が高いことを持ち出した桃井に、柿沢は平然とこう答えます。

「値段が適切かどうかは、あくまでその内容との兼ね合いだ。五の請求でも三の仕事内容しかないなら、それは法外だ。だが、十の請求でも十二の仕事内容なら、それは高くはない」
「最近は、そんな簡単なことさえ分からない奴が多い。だが、おれはあんたの工賃が高いと思ったことは、一度もない。仕事とは、そういうものだ」

このプロの誇りある心意気に、しびれました。自分が仕事をしている時、つい楽で安易な道を選びそうになると、このセリフを思い出します。自分は本当に代価以上の仕事をしたのか。自分の仕事に誇りを持つなら、この問いかけは忘れてはいけないと思います。
室町無頼垣根涼介さんの「室町無頼」を読み終えました。

著者の歴史小説は、「光秀の定理」に続いての2作目です。「光秀の定理」は面白いんだけれど、垣根作品としてはもう1つといった感じでした。
しかし、この作品は文句なしで楽しめる作品でした!

物語の舞台は、室町時代の末期。才蔵の父は、主を失い牢人となった元侍です。際だった才もなく、頼りとなる縁者もないため、とある村の雑役をして命をつないでいます。父はその血筋を誇りにしていますが、村人からは蔑まれる存在でした。そして、その息子の才蔵も厄介者として蔑まれています。

幼い頃から、生きるために働いてきた才蔵は、どうしたらこの境遇から逃れることができるかを考え続けています。そんな中、商いの必要性から六尺棒の扱いに長けた才蔵は、17歳の時にとある土倉の用心棒として雇われることになりました。
ある時、才蔵が守る倉を賊が襲ってきました。才蔵は果敢に戦いますが、賊の頭である骨皮道賢に敗れました。しかし、手下を殺されたのに、なぜか道賢は才蔵を助けたのでした。

道賢の本来の仕事は、都の治安を守る目付です。しかし、その仕事だけでは多くの手下を食べさせていくことができぬため、時折は盗賊のような真似もしていたのでした。才蔵の六尺棒の腕を見込んだ道賢は、道賢の知り合いの蓮田兵衛という男に預けられることになりました。この兵衛もまた、道賢に劣らぬ剣の使い手でした。

兵衛は不思議な男でした。高利に苦しむ村人のために無償で利率の値引きを請け負ったり、自分の家を開放して各地を旅する牢人や商人、人足に食べ物や泊まる場所を与えています。そして銭に対する執着も全くなく、必要な時に必要なところに銭があればいいと考えていたのでした。

そんな兵衛の計らいで、才蔵は師匠をつけて本格的に六尺棒を学ぶことになりました。その代わり、その修行が終わった後は、才蔵は兵衛の仕事に手を貸すことになりました。短期間で実力をつけるために、才蔵は唐崎に住む老人から命がけの特訓を受けることになりました。その過程で才蔵の体は傷だらけになりましたが、それを切り抜けたことで才蔵の腕前は格段に向上していたのでした。

兵衛の目的、それは崩壊寸前の幕府に対する反抗でした。そのために兵衛は、各地の情報を集め、人脈を広げて、土一揆の準備を進めてきたのでした。才蔵の役目は、その土一揆で先陣となって戦うことでした。才蔵たちが先陣を切ることで、一揆に勢いをつけるようとしていたのです。

兵衛と道賢は親しい間柄でしたが、今回ばかりは互いに敵として戦うことになります。戦いは兵衛の巧みな戦略もあって、一揆側の優勢に始まりました。しかし戦いが長期化するにつれ、戦いから抜ける者もではじめました。しかし兵衛は、それを止めないばかりか、戦力が少なくなっても最期の最期まで戦い抜くつもりでいました。

兵衛の究極的な目的は、土一揆の首謀者として首をさらされることでした。兵衛は最初から、今回の戦いで勝てないことは承知していました。しかし、自分が討たれて首をさらすことで、後に続く者が現れることを期待していたのでした。

物語の前半は、才蔵の成長が魅力的でした。後半は迫力のある土一揆の描写と、兵衛と道賢の生き様に心惹かれるものがありました。

その他にも、道賢と兵衛の2人と関係を結んだ遊女・芳王子の苦界に堕ちながらも失われない毅然さ、才蔵たちの敵であるはずなのに、なぜか憎めない叡山の僧兵頭・暁信。と、魅力的な登場人物がそろっています。

物語の舞台は室町時代ですが、読み終えた後には、ふと自分の生きるこの世界に考えが向きました。先進国に生きる私たちの日常は、途上国からはどう見えているのでしょうか。私たちが当たり前だと思っている生活。それは普遍でもないし、永遠でもありえないことを、私たちは忘れているのではないかと。
迷子の王様: 君たちに明日はない5垣根涼介さんの「君たちに明日はない」シリーズ第5弾、「迷子の王様」を読み終えました。

リストラ請負人の村上真介の人生と、その仕事の過程で関わるさまざまな人々を描いてきたこのシリーズも、今回で終了です。今回は「トーキョー・イーストサイド」「迷子の王様」「さざなみの王国」「オン・ザ・ビーチ」の4作品が収録されていました。私自身が現在仕事での転換期を迎えようとしているせいもあったせいか、今回はいつも以上にどのエピソードも心に深く訴えかけてくるものがありました。

「トーキョー・イーストサイド」では、化粧品業界が舞台となりました。主人公となった女性は、下町育ちのしっかり者です。頭もよく仕事もできる彼女ですが、下町育ち故のエリート層との感覚のずれを気にしています。
このエピソードでは、彼女の心の動きも面白かったですが、それ以上に印象に残る出来事がありました。かって村上にリストラされた男が、今ではコンビニで元気に働いている描写があったことです。リストラにあった時、目を泣きはらしていたその男が、今はコンビニでお客に笑顔を見せながら働いていました。この描写に、とても救われるものを感じました。

「迷子の王様」は、大手家電メーカーでずっとテレビの開発を続けてきた男のお話です。男の父親も開発者で、やはりテレビを作っていました。その姿に憧れて、男も同じ仕事を選んだのでした。しかし、現在主流の液晶テレビは、安価な賃金で製造ができる海外製品に押されています。将来の選択に悩む中、男はすでに退職した父親の元を訪れました。なんと彼の父親は、退職以来田舎に引っ越し農業で生計を立てているのでした。父と話をするうちに、男は物作りの原動力となる大切な思いに気がつくのでした。

「さざなみの王国」は、準大手書店に勤務する女性が主人公です。彼女は幼い頃から優秀な姉と比べられ、できの悪い子供とみられてきました。異常な潔癖症だったり、自分の興味のあること以外への関心が薄かったり、もしかしたら彼女は発達障害なのかもしれないと思えました。
無口で愛想が悪い彼女ですが、不思議と周囲の人間から嫌われていません。その理由がじょじょにわかってきます。彼女は普通の人間なら相手に恩を売ったと思える場面でも、それを相手に求めることがなかったのです。ある意味、天然な人なのですが、単に彼女は自分が気になること(お客さんがいるのに店員が見当たらない)が放置できない、見返りを求めずに人の役に立てる希少な人間だったのでした。

そしてラスト・エピソードとなった「オン・ザ・ビーチ」では、なんと村上の働くリストラ請負会社が廃業することになります。開業当初は、競合相手がいない特殊な仕事でしたが、今では競争相手も現れた上、社会の仕組みがこういった仕事を必要としない方向に進んでいたからです。そこで社長の高橋は、早々と廃業を決意したのでした。
仕事がなくなった村上は、陽子と共に海外での休日を楽しみます。その一方で、密かにこれからに向けての考えを固めていたのでした。最終的に村上がどうなったかは描かれず、その進むであろう方向が示唆されただけで終わりました。それでも物語のラストは、さわやかな雰囲気の心地よいものでした。

こうしてシリーズは終わりましたが、できれば村上がこの先どうなったのかを描いた続編も読んでみたいと思いました。(^^)
月は怒らない垣根涼介さんの「月は怒らない」を読み終えました。

物語は主として3人の男の視点から語られます。1人は多重債務者の取り立て人。ヤクザではないものの、限りなく裏に近いところで生きている男。1人は居酒屋で知り合った大学生。もう1人は既婚の警察官。この3人は、なんと同じ1人の女性と付き合っているのでした。その女性の名は、三谷恭子。なぜこんな不思議な人間関係ができあがったのか、それが語られていきます。

3人の男性ともに、恭子と知り合ったのは偶然からでした。しかし彼らは、一目会ったその時から恭子に激しく惹かれたのでした。そして強引に頼み込んで、恭子とつきあいをすることになりました。とはいえ、ブスではないものの、恭子は美人ではありません。どちらかといえば、地味な顔立ちです。そして彼女は、孤独でいることを厭いません。

警官以外の2人とは、恭子は肉体関係にあります。しかし、だからといって必要以上にベタベタするわけでもなく、常に相手との距離は保ち続けています。そんな関係がいつまでも続くのかと思ったら、あるとき3人はお互いに恭子と付き合っているということを知ってしまうのでした。そこからは、何かが起きそうな不穏な雰囲気が漂い始めます。

そんな中、恭子は今の関係を清算して、ヤクザまがいの男とだけ付き合うことを決めました。さらに緊張感が高まる中に起きる事件。そして、そんな事件を経てなお静かな恭子の心。そして、どうして恭子がそういう心持ちをするようになったかが明かされます。

これまでの垣根さんの作品と比べると、かなり地味な感じです。しかし、その精神的な支柱はまぎれもなく垣根作品だと感じられて感心しました。他者に依存することなく、自らの意志で立ち続ける人はやっぱりかっこいいですね。
光秀の定理 (単行本)垣根涼介さんの「光秀の定理」を読み終えました。

著者の初めての時代小説ということで、期待半分、不安半分といった気持ちで読み始めました。そして、垣根涼介さんの作品は、やっぱり垣根涼介さんの作品だったと思い知りました。垣根流の物の見方を交えて語られる物語が、本当に面白かったです。

物語は京で3人の男が出会うところから始まります。1人は関東から流れてきた剣士・新九郞、1人は原始仏教の実践者である坊主・愚息。そして、もう1人が物語のタイトルにもなっている光秀こと十兵衛です。この時の光秀は、まだ織田家には仕えておらず、京で貧窮生活を送っていました。そんな光秀が、どうして織田に仕えるようになり、さらには重用されるようになったのか。

物語の前半では、光秀は陰に回った形で、新九郞と愚息が物語を引っ張ります。その中でも村人たちに剣の稽古をつける中、新九郞が剣の理を見出していくあたりが面白かったです。そして中盤からは、物語の視点が光秀に移ります。織田家に仕官した光秀は、その最初の戦いで山城を制圧するように命じられます。山城へと続く道は4本。そのうちの3つには伏兵がいるが、1つにはいない。しかし偵察でわかっているのは、そのうちの2つに伏兵がいることだけ。そんな中で光秀がどんな決断をするのかが中盤の見せ場です。

後半は、本能寺の変が終わった後のお話です。既に光秀はこの世になく、年を重ねた新九郞と愚息がなぜ光秀がそんな行動に出たかを語り合います。本当は何が真実だったのか、それは誰にもわかりません。しかし2人のたどり着いた答えは、納得のできるものでした。

ということで、物語の語り口は味があるし、登場人物も魅力的でとても楽しめました。新たな境地を開いた垣根さんが、この先どんな作品を発表されるのか楽しみです。
狛犬ジョンの軌跡垣根涼介さんの「狛犬ジョンの軌跡」を読み終えました。

主人公の太刀川要は、33歳のフリーの建築士です。深夜気の向くままにドライブに出かけた要は、その途中で傷ついた黒犬を助けました。その犬はただの犬ではなく、なんと狛犬だったのです。という、垣根さんの作品にしては珍しく、ちょっとSFっぽいというかファンタジーっぽい雰囲気の作品でした。

なぜか他のペットには嫌われているその犬に、要はジョンという名前をつけて飼い始めました。一緒に暮らすうちに、何となく情も移ってきた頃、要はその犬が人を殺しているかもしれないことを知ったのでした。真相を知りたい要は、とうとう身分を偽って独自の調査を開始しました。そして、次第に事の真相が見えてくるのでした。

要とジョンの日常を淡々と描きつつ、それでもその語り口のうまさで読まされてしまいました。
要には麻子という年上の彼女がいますが、麻子も自営業で独立しており、お互いに相手に依存しすぎないさっぱりした関係です。それでも何かあれば、要は必死で麻子を庇うし、麻子も要に尽くそうとします。2人のこんな距離感が魅力的でした。設定はSF風味ですが、中身はどこかハードボイルドな垣根作品で安心しました。

物語の方は中途半端に終わってしまった感じですが、もしかして続編も作者は考えているのでしょうか!?
続編があるなら、それも読んでみたいですね。
勝ち逃げの女王: 君たちに明日はない4垣根涼介さんの君たちに明日はないシリーズ第4弾、「勝ち逃げの女王」を読み終えました。

今回は「勝ち逃げの女王」、「ノー・エクスキューズ」、「永遠のディーバ」、「リヴ・フォー・トゥディ」の4作が収録されていました。それぞれの作品では、航空会社、証券会社、楽器会社、ファミレスがテーマとなっています。

「勝ち逃げの女王」では、いつもはリストラを請け負っている真介が、今回は大量の退職希望者の中からベテラン社員を慰留する仕事を引き受けるという、いつもとは逆パターンのお話です。
「ノー・エクスキューズ」では、真介の会社の社長・高橋の過去が明かされました。それに伴って、高橋が現在のリストラ請負会社を設立するきっかけが明らかになります。
「永遠のディーバ」では、音楽への思いを残しながらも、楽器業界で働く男の気持ちの揺れが描かれていました。過去の夢に決着をつけるラストが素敵なお話でした。
「リヴ・フォー・トゥディ」では、衰退するファミレス業界に身を置く有能な社員が主人公でした。今日を大切に生きるという生き方に共感はできたものの、その優秀さがちょっと鼻につくお話でした。

このシリーズも4作目となりますが、手を変え品を変え、いろいろなパターンの話を見せてくれて面白いです。ただ、今回ちょっと残念だったのは、真介と恋人の陽子とのやり取りが少なかったことです。この2人の駆け引きも、この作品の楽しさの1つだと思いますので・・・。
張り込み姫 君たちに明日はない 3垣根涼介さんの「君たちに明日はない」シリーズ、第3弾「張り込み姫」を読み終えました。

リストラ請負業、村上真介を主人公にしたこのシリーズも3作目になりました。今回は、「ビューティフル・ドリーマー」、「やどかりの人生」、「みんなの力」、「張り込み姫」の4作が収録されていました。その中でも、一番面白かったのは、大手自動車メーカー・マスダの整備士を主人公にした「みんなの力」でした。メーカー名のマスダは、思いっきりマツダなのですが^^;、その整備士の車にかける愛情と乗り手の安全を最優先にした整備方針に、とても共感できるものがありました。

しかし、そんな整備士の思いとは裏腹に、会社はできるだけ短時間で顧客との打ち合わせを行い、時間のかかる作業よりは手短な作業を、修理よりは買い換えを勧める方向で話をもっていかせようとします。しかし、この整備士は自分のポリシーとして、それは受け入れられないのでした。そして彼は、ついに会社を去る決意をします。そんな時、主人公の真介の友人・山下をはじめとした、彼だからこそ整備をお願いしたいと思っている顧客が立ち上がりました。その中の1人にカキさんと呼ばれる作家がいたのには笑ってしまいました。(どう考えても、作者本人のことですよね(笑))

そういえば、第2作の「やどかりの人生」に登場した主人公も、観光業で働きつつ小説を書いていました。このような形で、作者の面影が作品の中から感じられるのはちょっと楽しいですね。
そして最後の「張り込み姫」では、新潮社ならぬ真潮社が登場したのにも笑ってしまいました。
借金取りの王子―君たちに明日はない〈2〉 (新潮文庫)垣根涼介さんの「君たちに明日はない」シリーズ、第2弾「借金取りの王子」を読み終えました。

主人公の村上真介は、相変わらず企業のリストラを請け負う仕事をしています。8歳年上の恋人、陽子も相変わらず健在です。今回は4つの企業のリストラ話、そして1つの人材派遣が描かれました。

その中でも印象に残ったは、第2作の「女難の相」と第3作の「借金取りの王子」でした。
「女難の相」では、保険会社のリストラを真介たちが請け負います。その中で真介が担当することになった男は、自らの意志でエリートコースから脱落してしまった男でした。成績もよく優秀な社員だった彼が、どうしてあえて道を降りることになったのか。その原因を描きつつも、ラストには爽やかさが感じられたのがよかったです。

「借金取りの王子」では、消費者金融がリストラの対象となっています。そこで真介が担当した男性は、かって上司から「王子」と呼ばれていた男でした。ギリギリのところでがんばっている彼ですが、リストラ候補として危ないところまで追い詰められていました。そんな彼の事情がじょじょに明らかになってきます。彼にとって大切なのは、奥さんだったのです。この彼と奥さんの関係がなかなか泣かせるものでした。

第5作の「人にやさしく」では、真介の会社がリストラ請負だけでなく、人材派遣業にも手を伸ばします。その手始めとして、真介は陽子の職場の求人を担当することになるのでした。これは短いお話でしたが、真介と陽子の絶妙な掛け合いもあって、楽しい話になっていると思いました。
人生教習所 (2011-09-30T00:00:00.000)垣根涼介さんの「人生教習所」を読み終えました。

就職斡旋率100%をうたったセミナーが小笠原諸島で行われることになりました。それにひかれて多くの人間がセミナーに申し込みをします。そこから選ばれた人間たちは、セミナーに参加して小笠原の自然や歴史、人々に触れるうちに何かが変わっていくのでした。

物語のメインとなる3人は、引きこもりの大学生、元ヤクザ、太った女性フリーライターと、それぞれにさまざまな問題を抱えています。最初は半信半疑でセミナーに参加した3人でしたが、セミナーでの日々を通して次第に変わっていきます。その中でも一番興味深かったのは、元ヤクザの柏木でした。amazonのレビューを見るまで気づかなかったのですが、彼はヒートアイランド・シリーズの第2作「ギャングスター・レッスン」に登場したことがある人物でした。元ヤクザという設定ではありますが、この柏木が本当に憎めない人間です。ぶっきらぼうなところや、強面な外見ではあるのですが、どこか人間的に愛嬌があるというか、可愛げがありました。

物語の最初は、セミナーの様子が描かれましたが、次第にセミナーというよりは小笠原諸島のたどった奇妙な歴史などが語られる割合が高くなっていきます。それらに触れることで登場人物たちは変わっていくのですが、なんとなく物語がセミナーものから、小笠原の観光案内に変わってしまったような気がしました。

セミナーを無事に終えた3人は、新たな道を歩き始めます。わずか1週間程度のセミナーで彼らは大きく変わったわけではありませんが、物の見方が少し変わったことで、今までよりも生きやすくなったようです。どんな環境で生きていても、本人が充足感を持って生きている、それが大切なのかなあと思いました。
クレイジーヘヴン垣根涼介さんの「クレイジーヘヴン」を読み終えました。

坂脇恭一はとある旅行代理店に勤めるサラリーマンです。そんな彼は、ふとした偶然から美人局をやっているチンピラとその女と知り合いました。そのチンピラに因縁をつけられて脅されている同僚から頼まれて、恭一はそのチンピラと話をつけることになりました。ところが、勢い余ってそのチンピラを殺してしまったのでした。

恭一の中には、もともと凶暴なものが潜んでいました。彼の車が置き引きにあった時、恭一はその犯人を見つけ出して、徹底的に相手を痛めつけたのでした。普段の恭一はそういった面を表に出しませんが、何かの拍子に恭一の凶暴性は表に現れるのでした。

そしてチンピラに薬漬けにされて利用されていた女・圭子。彼女は学もなく、最初に入った職場では男にいいように利用されました。仕事を辞めて別の生活を始めようとした圭子でしたが、売春をするうちにチンピラの市原という男に捕まって、美人局をさせられてきたのでした。

恭一と圭子、2人ともそれぞれに心に傷を負った過去を抱えています。そんな2人が生きてゆくには、心の箍を外してしまわなければならないような時もあります。こうして出会った2人は、いつしか一緒に生きるようになっていたのでした。

これまでに読んだ垣根さんの他の作品と比べると、この作品ではやけにセックス描写が濃厚で読んでいてげんなりしてしまうところがありましたが、やられた相手にはやりかえすという恭一の生き方には垣根作品に登場する他の主人公と同じような匂いを感じました。
君たちに明日はない垣根涼介さんの「君たちに明日はない」を読み終えました。

村上真介は、企業からの依頼でリストラを請け負う会社の社員です。本来ならばリストラは、会社の人事部門が中心となって行うのですが、さまざまな思惑で内部処理できない会社が真介たちの会社に依頼してくるのです。自分の言動1つで、ひょっとしたら1人の人間の人生さえ狂わせてしまうかもしれない緊張感を持ちつつ真介は仕事に向かっています。

この本には、そんな真介が担当した5つのケースが取り上げられています。最初のケースで出会った芹沢陽子は、気が強くて、年上で真介の好みの女性でした。それでも真介は、陽子に退職を勧める仕事をこなさなければなりません。結果的に、陽子は真介の恋人になるのですが、そうなっていく過程がユーモラスで笑えました。

この他には、おもちゃメーカーの開発部に勤務する男、合併した銀行で閑職に追いやられた旧友、自動車メーカーの広報コンパニオン、音楽会社のプロデューサー2人、などが登場します。どのお話もそれぞれに読み応えがあって面白かったです。

読みながら思ったのは、たかが仕事、されど仕事ということです。最底辺の動機で考えたら、働くのは生活費を稼ぐためです。しかし、誰もがただ生きるために働いているだけではありません。働く前から、あるいは働くうちにそれぞれの仕事にやりがいや誇りを見出しています。それなのに、会社という組織は時に冷酷に、そんな人間にもあなたは不要だと突きつけてきます。これは会社に尽くしていればいるほど、自分という人間を否定されることなのだと思いました。

真介の扱った人間の中には、リストラ勧告を受けて涙をのんだ人間も数多くいたようです。それでも、この本に収録されている限りでは、重たさよりも救いが感じられたのがよかったです。
午前三時のルースター (文春文庫)垣根凉介さんのデビュー作、「午前三時のルースター」を読み終えました。

旅行代理店で営業をしている長瀬は、得意先の宝石会社の社長・中西から孫をベトナムに連れて行って欲しいと依頼されました。孫の慎一郎の父親は、ベトナムで事業を進めようとした時に行方不明になってしまったのです。事件からは6年も経過していますし、現地の警察も父親は何者かに殺害されたと判断しています。

その依頼を引き受けた長瀬でしたが、慎一郎の目的は祖父に話したのとは違うところにありました。なんと慎一郎は、テレビの番組でベトナムが紹介された時に、彼の父親らしき人物を目撃していたのです。もし父が今でも生きているなら、父と会いたいそんな慎一郎の頼みを長瀬は引き受けることにしたのでした。

こうして2人はベトナムに飛びました。この旅には、長瀬の友人である源内という男も同行することになりました。しかし、到着早々予約したホテルがキャンセルされていたばかりか、現地のガイドすらみつかりません。
そこで長瀬は、独自に現地でスタッフを集めました。タクシードライバーをしていたビエンと、娼婦のメイです。
5人は力を合わせて少年の父親の所在を突き止めようとします。しかし、それをことごとく邪魔しようとする何者かがいたのでした。

それでも長瀬たちはめげることなく、目的を果たすために努力するのでした。そうして、苦労の末にたどり着いた真実は苦いものでした。

先に読んだ垣根さんの「ボーダー」で少しネタバレされていたので、謎解きという点では驚きがありませんでしたが、それでも小説としては十分に面白かったです。特に凄いと思ったのは、第1部で長瀬が慎一郎と一緒に出発の準備を進める過程です。派手なアクションがあるわけでもないのに、物語として面白くて目を離すことができなくなりました。そして描写の説得力というか、空気感まで表現したような乾いた文体も好みでした。
ボーダー―ヒートアイランド〈4〉垣根凉介さんの「ヒートアイランド」を始まりとする物語の第4作目にあたる、「ボーダー」を読み終えました。

その後のシリーズで、"雅"のリーダーを務めてきたアキのその後は描かれましたが、サブリーダーだったカオルのその後は描かれていませんでした。この第4作では、いきなりカオルのその後が描かれて、期待が高まりました!

アキが裏金を専門に狙う柿沢や桃井の仲間になり、カオルの前から姿を消しました。しばらくはカオルは呆然とした生活を送っていたようですが、その後受験勉強をして大学に合格しました。アキたちと"雅"を結成する前に、カオルは大検に合格して、大学入学資格を得ていたのでした。中学を卒業してすぐに、それに合格したというのですから、やはりカオルはただ者ではありません。

東大に入学したカオルは、そこで中西慎一郎という同級生と知り合いになりました。その中西の義理の妹・章に誘われて、中西は"雅"という集団が行っているファイティングショーを見物することになりました。
中西からその話を聞いたカオルは、自分たちの偽物が自分たちをまねた興業を行っていると知り、その始末をつけるためにアキに連絡を取ったのでした。

お話はこの中盤あたりまでは面白かったのですが、アキとカオルの正体が中西と章にばれたあたりから微妙な展開になり、中西が「午前3時のルースター」での経験を語ったところでがくっとなりました。まだ「午前3時のルースター」は未読だったのですが、このお話の中であらすじを語られてしまい、読む楽しみがなくなってしまいました。

最後は、アキとカオルは柿沢や桃井と共に、偽の"雅"に制裁を加えて、それを背後から操っていた暴力団にも話をつけます。ここがもう少し盛り上がれば物語として面白かったと思うのですが、あっさりと描かれていて残念でした。
ギャングスター・レッスン「ヒートアイランド」の続編、「ギャングスター・レッスン」を読み終えました。

この本は「ヒートアイランド」とは違い、連作短編形式でした。「ヒートアイランド」で裏金専門の強盗の仲間入りをしたアキを、一人前の強盗にするために、柿沢や桃井がアキを鍛えるお話でした。
偽の戸籍作りから始まり、逃走に使用する車のチューンナップと試走、そして銃の入手と訓練。さらに予行練習を経て、いよいよ実戦への参加とアキの成長する様子を辿ることができました。

お話の中で一番気に入ったのは、桃井が昔の彼女と出会う「試走」でした。裏稼業に就いたために、彼女から距離を置いた桃井でしたが、そんな桃井と憲子の大人な関係がいい感じでした。
それから、もう1人印象に残ったのは、「予行演習」と「おまけ」に登場した、ヤクザの若頭・柏木でした。怖いヤクザのはずなのに、どこか笑える部分を持った面白いキャラクターでした。

「ヒートアイランド」ほどの面白さはありませんでしたが、その番外編としては充分に楽しむことができました。できればアキだけでなく、カオルがその後どうしているかも描いて欲しいなあ。
ヒートアイランド先日「サウダージ」を読み終えたばかりですが、垣根涼介さんの「ヒートアイランド」にも手を出してみました。

これは「サウダージ」の姉妹編ともいえる作品で、時間的には「サウダージ」より前。アキがまだ柿沢や桃井の仲間になる以前のお話です。
「サウダージ」でも触れられていたように、その頃まだ十代の若者だったアキは、カオルという若者と組んでストリートギャングたちの格闘ショーを見せ物にして稼いでいました。そんなアキの手下が、ふとしたことから裏金専門の強盗である柿沢たちの仲間の金を奪ってしまいました。

その金の後ろ暗さに気がついたアキとカオルは、何とかうまく事態を収拾しようとするのですが、彼らから金を取り返そうと柿沢と桃井が動き出し、さらにアキたちの商売に目をつけたヤクザが、その稼ぎの上前をはねようと画策を始めました。その上、柿沢たちに稼ぎを奪われたヤクザも、金の行方を必死で追っています。

かくして、4つの勢力の息詰まる駆け引きが行われることになりました。
先に読んだ「サウダージ」同様、お話が進むにしたがって物語のテンポが上がって、最後は一気に読み終えることができました。
登場人物の中では、アキとカオル、柿沢と桃井が魅力的でした。相手の動きを予測して、その裏をかこうとする行動も魅力的でしたし、話の合間に垣間見える彼らの過去話もよかったです。
サウダージ垣根涼介さんの「ワイルド・ソウル」が面白いと聞いて興味を持ったのですが、図書館に見あたらなかったので、この「サウダージ」を借りてきました。
大藪春彦さんの小説を思わせる、銃の調達や車のチューンナップの描写もあって、一気に読み切らせる面白さがある作品でした。

メインとなる視点は、日系ブラジル人であることにコンプレックスを持ち、それを隠して生きている耕一と、渋谷のストリートギャングのリーダーだったけれど、今では裏金専門に狙う強盗の仲間として教育を受けているアキ、の2つの視点から物語が描かれます。

最初は耕一とアキがどういう繋がりを持ってくるのか読めませんでしたが、耕一も以前は裏金専門の強盗に誘われて教育を受けたことがあったことから、2つが繋がりました。今では仲間から追われた耕一ですが、今の南米人の彼女・DDが巻き込まれた事件をきっかけに、コカインの密輸取引がヤクザと行われることを知りました。
自分1人では、その取引に割り込んで現金とコカインを手に入れることは無理だと知った耕一は、昔の仲間に声をかけて、一緒に密輸の現場を襲撃しないかと誘うのでした。

その襲撃がお話のメインではありますが、そこに至るまでの耕一とアキ、それぞれの恋人事情が事細かに描かれていきます。正直言って、耕一が付き合っているDDはうざいというかあまりにもアホすぎて好きになれませんでしたが^^;、そんなDDに尽くしてしまう耕一を見ていると、泥沼にはまった恋はこういうものかもしれないと妙に納得してしまいました。

物語は第1章、第2章、第3章の順にページ数が少なくなるのですが、それに合わせて物語が疾走してゆくのが気持ちよかったです。中盤はけっこうドロドロしたお話でしたが、ラストが予想外に爽やかだったので読後感もよかったです。(^^)