日々の記録

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どこかでベートーヴェン (『このミス』大賞シリーズ)中山七里さんの岬洋介シリーズ第4作、「どこかでベートーヴェン」を読み終えました。

今回は今までと趣向を変えて、岬洋介がまだ高校生の頃のお話でした。物語の語り手となるのは、洋介の級友の鷹村亮です。岐阜県にある加茂北高校の音楽科に、岬洋介が転校してきました。しかし洋介の転校をきっかけに、音楽科の抱えている暗部が次第に表面化してきます。そして洋介が、他の生徒にはできない卓越したピアノ演奏をしたことで、洋介はクラスの中で浮いた存在になりました。

圧倒的な実力を持つ存在への憧れと妬み。凡人がどんなに努力しても絶対に手が届かない、天才と凡人の間にある大きな溝。洋介が転校してくるまでは、それほどの実力を持った生徒がいなかったために、目を背けて入られた現実に、生徒たちは否応なく直視させられることになりました。

そして文化祭での発表会のために、音楽科の生徒たちが夏休みに登校した時に事件は起きました。豪雨によって土砂崩れが起こり、学校が周囲から孤立してしまいました。直前に土砂崩れの危険に気がついた洋介は、学校からの脱出に成功して助けを求めます。そのおかげで、学校に取り残された生徒たちは無事に救助されたのでした。

しかし、この時もう1つの事件が起きていました。岩倉という音楽科の生徒が、何者かに殺害されていたのです。そして、才能を妬んだ岩倉から洋介が暴力を振るわれていたことから、洋介は容疑者として疑われることになってしまいました。周囲が急速に洋介への態度を変える中、亮は洋介に協力して事件の真相を明らかにしようとすることになります。

シリーズの他の作品でもそうですが、この作品でも推理よりも音楽描写に力が入っていました。今回のテーマは、ベートーヴェンのピアノソナタでした。作中に登場したのは、「月光」と「悲愴」でしたが、どちらも何度も聴いている曲なので、演奏シーンでは自然に頭の中に曲が再現されました。この圧倒的な音楽描写が、このシリーズの魅力ですね。(^^)

事件の真相は途中でほぼ予想がついてしまいましたが、物語本編の面白さもあって、それは気になりませんでした。
特に青春時代の自分自身に対する根拠のない自信と潔癖さは、現時点で学生である読者よりも、すでに社会人となった読者の方が、若き日の自分の痛さを思い出して恥ずかしさに悶絶しそうになると思います。(^^;

誰しも若い頃には、いろいろな夢を持つと思います。そして普通に生きる人たちを、見下してしまうこともあります。
しかし社会に出て様々な経験をしてはじめて、ようやく普通に生きることのたいへんさに気がつきます。誰だってそれなりに努力はしているのです。でも、突出した特別な存在になれるのは選ばれたごく一部だけです。

今回この本を読んだことで、若気の至りを思い出したり^^;、普通に生きるのだってけっこうたいへんだということを思い出しました。
能面殺人事件 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)先日読み終えた「白昼の死角」が面白かったので、高木彬光さんの他の作品も読んでみたくなりました。今回読んだのは、日本探偵作家クラブ賞を受賞した「能面殺人事件」です。

探偵の高木彬光の元へ、知人の石狩検事からの手紙が届きます。そこには、事件の解決半ばにして事件から離れた高木に、代わりに探偵役を務めた柳光一の詳細な手記と、石狩検事自身の手紙が同封されていました。

物語の舞台となるのは、終戦直後の昭和21年です。戦地から帰国した柳は、千鶴井家という旧家の居候として暮らしています。この旧家には、おぞましい秘密が隠されていました。この千鶴井家で起きた殺人事件をきっかけに、その暗部が明るみに出ることになりました。

第1の殺人は、完全な密室状態の部屋で屋敷の主人である千鶴井泰次郎が心臓麻痺で死亡したことから始まりました。被害者の体に外傷はなく、不慮の死としか思えない状況ではありましたが、部屋に残された曰くありげな能面から他殺によるものだと柳や高木は確信していたのでした。

事件が起きる前、身の危険を感じた泰次郎は、調査のために探偵を雇いたいと柳に相談しました。そこで柳は、旧知の間柄であった高木を、探偵として泰次郎に紹介しようとしていたのでした。しかし泰次郎は、高木に依頼の電話をかけた後、高木が千鶴井家までやって来る前に既に殺害されていたのでした。

こうして高木は、事件の調査に乗り出しました。最初はそんな高木のワトソン役を務めていた柳でしたが、高木が東京に急用ができたため、途中から高木に代わって探偵役を務めることになるのでした。

読み終えた印象は、古き良き探偵小説という感じでした。海外の古典的な探偵小説の影響を大いに受けつつ、より以上の作品を作りだそうという著者の気概を感じました。旧家が舞台になっているあたりに、横溝正史の作品のような香りを感じましたが、内容的には謎解き要素に重点が置かれていました。

それなりに面白く読み終えましたが、やはり今となっては古さを感じてしまいます。また作品中で、海外の著名作品のネタバレが多数あるのも、どうかと思いました。
白昼の死角 (光文社文庫)高木彬光さんの「白昼の死角」を読み終えました。

この作品は、著者である高木彬光が偶然であった天才的な詐欺師・鶴岡七郎から、その驚くべき犯罪の内容を聞いて書き留め、それを本人との約束の期日を守った上で発表したという形式で語られています。

舞台となるのは、終戦直後の日本です。東大の学生だった鶴岡は、金融に関して天才的な頭脳を持っていた隅田光一たちと共に、太陽クラブという金融会社を立ち上げました。会社は隅田の読み通りに、飛躍的に発展しますが、隅田の精神的な脆さから、彼の死と共にあっけないほど簡単に解散することになってしまうのでした。

ここからが、それまで隅田の影に隠れていて発揮されなかった、鶴岡の詐欺師としての天才的な手腕が開花することになりました。鶴岡は頭脳面では隅田に劣ったかもしれませんが、剛胆さや精神的な強さでは隅田を遙かに上回っていました。表向きの商売として、街の金融会社を経営しつつ、鶴岡は十分な時間をかけて練り上げた作戦を実行して、大金を手にすることになるのでした。

そんな鶴岡に、福永検事は疑惑を持ちますが、鶴岡は簡単にしっぽをつかませるようなへまはしません。そればかりか、検事への対抗心に燃える鶴岡は、大使館を舞台にした巧妙な詐欺を企てて成功させるのでした。しかし、完璧に見えた鶴岡の計画も、思わぬところからほころびがでます。さらに、彼自身も結核を患っていることが判明します。
体力も気力も限界の上に、運命までもが鶴岡に手のひらを返します。しかし、鶴岡は最後の最後まであきらめません。

この作品は昔から気になっていたのですが、かなりの大作ということもあり、なかなか手が出ませんでした。今回ようやく読み終えましたが、時代的な古さを感じるところはありますが、それを差し引いても十分満足できる傑作でした!
古書収集十番勝負 (創元推理文庫)紀田順一郎さんの「古書収集十番勝負」を読み終えました。舞台となっているのは、1980年代後半〜1990年代前半のバブル時代の神保町です。

神保町に古くからある村雲書店では、主の源三郎が病に倒れ、その後継者を決めることになりました。長女・富世子の夫の倉島と、侍女・信子の夫の蜷川は、激しくいがみ合っています。そこへ源三郎から、1つの提案がされました。源三郎が指定した10冊の古書を、より多く集めた方がお店の後継者となれるのです。こうして後継者を決めるための戦いが始まりました。

それとは別に、大学の教授の長岡は古書マニアです。そんな長岡に、講師の立丸はいつもこき使われています。偶然、村雲書店の争いを知った2人もまた、この古書を巡る争いの中に加わります。さらに、長岡の古書のライバルとでもいうべきマニアで塾経営者の永岡も戦いに加わり、事態はより複雑になっていくのでした。

そんな中、デパートの即売会で販売された古書が正体不明の男に持ち去られる事件が発生します。そして、洗足亭と名乗る愛書家の主催する怪しげな入札会まで行われることに・・・。最終的に勝利を得るのは誰なのでしょうか。

一応、推理小説仕立ての作品なのですが、推理小説としての完成度はかなり低いです。しかし、その裏側で語られる古本街の様子や、古書に狂奔するマニアの様子は興味深かったです。この本を読んで、やはり本は読むものであって、集めるものではないなあと思いました。(^^;
ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖」の第6巻を読み終えました。

前巻の終わりで、栞子に重傷を負わせた田中敏雄が保釈されて、栞子が燃やしたと偽った太宰治の「晩年」を再び狙っていることが匂わされました。そして、物語の冒頭では、なぜか物語の語り手である五浦大輔が負傷して病院に入院しています。そこに栞子の母・智恵子が訪れました。ここから物語は、大輔が智恵子にことの経緯を説明する回想へと突入します。

田中の件を大輔と栞子が知って、2人が警戒している中、なんと当の田中敏雄本人から大輔に本を探して欲しいという依頼が入りました。それは以前の事件の時に、田中が盗もうとしたのと同じ「晩年」でした。しかし、今回の依頼は、栞子が持っていた晩年ではなく、彼の祖父である田中嘉雄が持っていた何やらいわくありげな「晩年」だったのでした。

大輔がそれを栞子に伝えると、彼女はその依頼を引き受けると言いました。それは、もし田中が栞子の時のようにその「晩年」を狙っているなら、そのことを持ち主に警告しようと考えたからです。こうして大輔と栞子は、45年前の出来事を探ることになるのでした。その過程で、大輔の家系もこの事件に関わりがあることがわかりました。

そして栞子は、事件の背後に隠れていた真実を見つけ出すのでした。それがどう大輔の負傷とつながるかは、ネタバレになるので書きません。(^^;

ただ、この巻ではこれまでに張り巡らされてあった伏線が、一気に回収されました。そして物語は、大輔が栞子の母・智恵子の家系の秘密に気づくところで終了しました。「あとがき」によれば、この作品は次かその次くらいで完結するようです。長々と続くけれど、きちんと完結しない作品も多い中で、これは喜ばしいことだと思いました。

この巻を読んで、本に内容以上の価値を求めるのはやめようと思いました。歴史的に、金銭的に価値のある本がありますが、それを求めて本を手に入れることは、本が作られた目的に反すると思ったからです。
印刷技術の発展により、さまざまな本を私たちは安価に手にすることができるようになりました。そこには、知識を一部の特権階級に独占させるのではなく、より多くの人に広めようという意志があったと思います。
稀覯本をありがたがることは、この考えに逆行するものだと思います。そして本の価値は、何よりもまずその内容にあることを忘れてはいけないと思いました。

江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)有栖川有栖さんの「江神二郎の洞察」を読み終えました。

これまで読んできた学生アリスが登場するシリーズは、全て長編でした。しかし、この「江神二郎の洞察」はアリスが推理小説研究会に入部してからの1年を追った短編集でした。英都大学に入学したアリスは、ふとした偶然から江神と知り合いました。そのままアリスは、江神が部長を務める推理小説研究会に入部することになったのでした。

収められた短編の内容は、長編と比べるとごくささいな事件が多かったです。でもそれはそれで、アリスたちの日常を知ることができて楽しかったです。全部で9本の作品が収録されていましたが、面白かったのは第1作でアリスが推理小説研究会に入部したばかりに起きた「瑠璃荘事件」と、マリアが推理小説研究会に入部することになった「蕩尽に関する一考察」でした。

長編シリーズでもそうだったのですが、やはりマリアの存在は大きいですね。アリスと江神、望月、織田の4人組も面白いのですが、やはり男4人だとどこか野暮ったい雰囲気があります。それがマリアが作品に参加することで、一気に華やかになったように感じました。

内容的には、パズル的な感じの推理小説なのですが、謎解きよりもただアリスたちが学生会館に集まってだべっている描写とかが面白いと思いました。長編の方は、次の1作で完結する予定らしいですが、どんな作品になるのか楽しみです。
ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)三上延さんのビブリア古書堂の事件手帖シリーズ、第5巻「ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~」を読み終えました。

今回は、栞子に告白した五浦に、栞子がどう答えるかが軸となって物語が進みました。お話としては、古本の紹介雑誌である「彷書月刊」を扱ったもの、手塚治虫さんの「ブラック・ジャック」を扱ったもの、寺山修司さんの「われに五月を」を扱ったものの3つの物語が収録されていました。

基本的にこの作品は五浦視点で物語が進んでいるのですが、今回はメインとなる物語の合間に断章が挟まれていて、それは五浦以外の人間の視点から語られていました。そして、今回はプロローグとエピローグにちょっとした仕掛けがありました。読み終えた時は、なんだか時系列がおかしいような!?と不思議に思いましたが、amazonでレビューを読んで本を読み返してみたら、やっとその意味に気がつきました。

物語としては、手塚治虫さんの「ブラック・ジャック」を扱ったものが一番面白かったです。わたしもかって手塚作品にはまって、わずかの期間ですがファンクラブに入っていたこともあります。(^^; あ、でもブラック・ジャックは苦手で、いまだに通しで読んだことはないんですよね。それよりは、初期のSF3部作とかの方が好きだったので・・・。

今回もまた、クライマックスでは栞子の母が登場しました。なぜ五浦に返事をする前に、栞子は母と会いたいと思ったのか、その理由も明かされます。そして、栞子に新たな脅威が近づいてきたところで次巻に続くとなりました。
この作品、雰囲気やキャラなどはそんなに好きではないのですが、なぜか新刊が出ると買っちゃいますね。(^^;
珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)岡崎琢磨さんの「珈琲店タレーランの事件簿」を読み終えました。

京都の裏路地にひっそりとお店を構えた珈琲店。それが物語のメインとなる珈琲店タレーランです。偶然そのお店を知った主人公は、そこで理想とするコーヒーをいれてくれるバリスタと出会いました。それが主人公と、バリスタである切間美星との出会いでした。

美星は、コーヒーをいれる腕だけでなく、推理力も持っていました。そして美星は、お店に持ち込まれるささやかな謎解きをしてくれるのでした。

最初、このあらすじを知った時は、雰囲気のいい喫茶店を舞台にした日常系の推理小説かと思ったのですが、その期待は大きく裏切られました。コーヒーの蘊蓄はそれなりに面白いのですが、主人公や美星のキャラがいつまでも立ってこず、全く魅力を感じませんでした。日常的な謎解きの方も今ひとつですし、どうしてこんな作品が「このミステリーがすごい」大賞候補だったのか疑問に思いました。

春には続編も発売されるらしいですが、登場人物の会話はまどろっこしくてイライラするわ、小説として読むのが苦痛なくらい文章が読みにくいわ、いっそのことラノベと割り切って執筆してくれた方がよっぽど面白い作品になったのではと思いました。
ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)三上延さんのビブリア古書堂シリーズ第4弾、「ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~」を読み終えました。

第4弾となる今回は、いよいよ栞子さんの母親・篠川智恵子が物語に関わってきました。
これまでは連作短編といった形を取っていたこの作品ですが、今回は江戸川乱歩の作品にターゲットを絞った長編になっています。これまでは、古書の蘊蓄があちこちで語られていましたが、今回はそれは減って、謎解きと栞子さんと智恵子の母娘の確執が物語の中心となっていました。

物語の発端は、ビブリア古書堂にあるお客がやって来たところから始まります。そのお客は、智恵子の推理力を当てにしてお店に訪れたのでした。しかし、いまでは智恵子は店にいません。こうして母親の代わりに、娘の栞子がその依頼に応えるためにある老姉妹のもとを訪れたのでした。そこで栞子は、三重に鍵がかけられた金庫を開けて欲しいと依頼されました。もしそれに成功すれば、この家に残された貴重な江戸川乱歩の作品を譲るというのです。

こうして栞子と大輔は金庫の扉を開けるために、それに必要な鍵探しと暗号解読をすることになったのでした。
そんな2人の前に、ついに智恵子が現れました。栞子と同じような容貌と声を持つ智恵子は、栞子以上の古書の知識を持っていました。どうやら、智恵子の狙いは金庫の中身にあるようです。栞子と大輔は、智恵子より先に金庫の謎を暴くことができるのでしょうか。

今回は1つ謎が解けたと思ったら、その答えが二転三転して面白かったです。栞子と大輔の関係も、本当に少しずつですが進歩しているようです。栞子の母親・智恵子の不気味な雰囲気も加わって、物語としてもなかなか面白くなってきました。
ただ1つ気になったのは、乱歩の「二銭銅貨」のトリックについて作中でふれてしまっていることです。ネタバレは最小限に抑えられていたようですが、それでも別の推理小説のトリックを作中でばらしてしまうのはどうかと思いました。
いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)中山七里さんの「いつまでもショパン」を読み終えました。この作品は、「さよならドビュッシー」から始まる岬洋介を探偵役としたシリーズの第3作です。

今回の舞台は、ポーランドで行われるショパンコンクールです。物語の語り手となるのは、ポーランドのピアノの名門家庭に育ったヤン・ステファンスです。彼はポーランドの期待の星として、世間からの注目を集めていたのでした。
そして、コンクールの予選が始まりました。各演奏者が、それぞれに技巧を凝らしたピアノ演奏を披露しています。そんな中で、1つの殺人事件が発生しました。凶悪な爆弾テロリストで、ピアニストとあだ名される人物を追っていた刑事が何者かに殺害されたのです。刑事は銃で撃たれただけでなく、両手の指を切断されるという不可解な殺され方をしていたのでした。

さらに、ポーランドではアルカイダの手によるテロが頻発していました。そんな中でコンクールは中止されるかと思いきや、審査委員長はあくまでもコンクールを続けることを宣言しました。ここで演奏を中止すること、それはテロに屈服することになるからだと、委員長は民衆に宣言したのでした。

こうしてコンクールは、その後も続きます。ヤンは何とか予選を勝ち続けますが、その中で彼には迷いが生まれていたのでした。特にヤンの心を揺さぶったのは、2人の日本人の演奏でした。その1人、榊場隆平は盲目のピアニストです。そのモデルは、話題のピアニスト・辻井伸行さんかなあと思いましたが、その演奏の素晴らしさにヤンは打ちのめされてしまったのでした。

そして、もう1人ヤンを打ちのめしたのは岬でした。2人の演奏を聴いて以来、ヤンは自分の演奏は周囲に影響されて作り上げられたロボットの演奏のようだと思い始めたのでした。物語は、そんなヤンの精神的な成長を描きつつ、コンクールのピアノ演奏の詳細な描写も加わって、まるで本の中からショパンの演奏が聞こえてくるかのような迫力がありました。

推理小説ということで、一応最後に犯人が判明するのですが、物語を読んでいる途中で謎解きなんてどうでもいいものに思えてきました。それくらい、この作品は演奏描写に力が入っていて、読み応えがありました。
そうそう。今回の作品では、これまでこのシリーズを読んできた読者へのプレゼントとして、先の2作品に登場した主人公たちが顔を見せてくれています。もちろん、先の2作を知らなくても楽しめる内容ですが、それを知っていれば思わずにやりとできる楽しみがあります。
午前零時のサンドリヨン (創元推理文庫)相沢沙呼さんの「午前零時のサンドリヨン」を読み終えました。

相沢さんの作品は、以前若手作家の作品を集めた「放課後探偵団」で読みました。その時の感想を読み返してみると、マジックを使った内容が面白かったものの、ライトすぎると感じていました。それ以来、相沢さんのことは忘れてしまっていたのですが、最近文庫でこの「午前零時のサンドリヨン」が発売されて、久しぶりに作品を手にすることになりました。

高校生の須川君は、同じクラスの酉乃初という女の子のことが気になっています。そんな彼女は、学校では無口で取っつきづらいのに、とあるレストランでマジシャンのアルバイトをしていたのでした。酉乃初は、凄腕のマジシャンだったのでした。そんな初と須川君が協力して事件の謎を解く、4篇の物語が収録されていました。

第1話ではいじめ、第2話では将来への不安と、学生らしい悩みを描きつつ物語は進行していきます。そして、それまでバラバラだった物語が、1年前に亡くなった藤井綾香の幽霊というキーワードでつながっていきます。
正直、推理小説としてはまあまあな感じでしたが、須川君たちの青春の悩みを描いた青春小説としては、第1級の作品に仕上がっていると思いました。

とくに第3話のラストで、初が自分のマジックに対する自信を失い、第4話で須川君の支えでそこから初が復活するという流れは感動的でした。最初、初は主人公としては今ひとつ華がないと感じましたが、最後の彼女の心の叫びを聞くと、主人公は彼女しかありえないと思えました。
フェルメールの仮面小林英樹さんの「フェルメールの仮面」を読み終えました。著者は大学の教授で、これまではゴッホの作品を解説する本などを書かれていたようですが、本書が初のフィクション作品となるらしいです。

この物語では、現在と過去の2つの視点から物語が語られます。現在は、折原祐一郎という青年が主人公となっています。幼い時から画才のあった祐一郎は美大への進学を目指しますが挫折します。その代わり、パリで絵画の塾を開いているシャセリオという教師の下で徹底的に古典作品の模写と修復の技術について学びます。塾を卒業する時、祐一郎は素晴らしい模写作品を何枚も仕上げる功績を挙げていたのでした。

過去の主人公となるのは、貧しいながらも画才がある青年・アンリです。彼は絵で身を立てようとパリへと出てきました。そして、祐一郎と同じようにアンリもまた徹底的に模写の技術を学ぶのでした。仕事でオランダへ赴いたアンリは、そこでフェルメールの作品と出会って魅せられました。そこからアンリとフェルメールの作品の模写との関わりが生まれたのでした。

現在と過去の物語は、最初はあまり交わることなく展開します。ところが、お話が後半になるに従って、2つのつながりが見えてくると俄然面白くなりました。祐一郎とアンリは、それぞれの関わり方で贋作と関わるようになってしまったのです。思わぬ運命に翻弄される2人の青年の人生が、とても興味深く描かれていました。

この作品が凄いのは、著者が美術の専門家ということもあり、作中での絵画の描写や作画技法などが事細かに語られている点です。そういった素晴らしい描写のおかげで、文字を読んでいるはずなのに、実際に描かれた絵の生き生きとした様子が目に浮かぶようでした。これまで絵画にはあまり興味がありませんでしたが、この作品を読んだことで、今までとは違った目で絵と接することができそうな気がしました。
花の下にて春死なむ (講談社文庫)北森鴻さんの香菜里屋というビアバーを舞台にした連作短編集、「花の下にて春死なむ」を読み終えました。

三軒茶屋の路地裏にあるビアバー、香菜里屋のマスター工藤は、年齢不詳の不思議な人物です。その上、彼はお客の話を聞いただけで、その裏にある本質を見抜いてしまうという才能もあったのでした。そんなお店に集まってくるお客が持ってきた事件が、次々と語られていく短編集です。

この本には、表題作「花の下にて春死なむ」、「家族写真」、「終の棲家」、「殺人者の赤い手」、「七皿は多すぎる」、「魚の交わり」の6編が収録されています。「花の下にて〜」と「魚の〜」はフリーライターの飯島七緒の視点から語られていますが、他の作品では別の人物が語り手となっています。それでも、お店には常連のお客もいて、その人物は複数の作品にまたがって登場していたりするのが面白いです。

ビアバーを舞台にした作品という面白さはあるのですが、食べ物を扱った作品にしては少し内容が重すぎる気がしました。これでは、せっかくのおいしそうな料理の描写があっても胃がもたれてしまいます。(^^;
先生と僕ドラマ化されるらしい坂木司さんの「青空の卵」を読み始めたのですが、第1話に出てきた登場人物の身勝手な論理と主人公コンビの男同士とは思えない関係が気持ち悪くて挫折してしまいました。
別の作家の本に手を出そうかと思いましたが、先の作品とは全くつながりがなさそうな本があったので、これを読んでみることにしました。それが、今回読み終えた「先生と僕」でした。

伊藤二葉は地方から上京してきた大学生です。そんな彼は、公園で家庭教師をしないかと声をかけられました。二葉に声をかけてきたのは、なんと中学生でした。その中学生・隼人君に言われるままに、二葉は家庭教師を引き受けることになりました。でも勉強をするのは半分だけ。残りの半分は、人が殺される本が読めない極度の恐がりの二葉に、隼人君が人の知らないミステリーを勧めてくれたりする雑談時間です。
そんな風に出会った2人は、いつしか協力して日常のささやかな謎解きをするようになるのでした。臆病者の二葉ですが、記憶力だけは抜群で、それが捜査に役立つことも度々です。

という先生=隼人君と、僕=二葉の2人を主人公にした連作短編集でした。この本には、「先生と僕」「消えた歌声」「逃げ水のいるプール」「額縁の裏」「見えない盗品」の5作が収録されていました。あまり深刻すぎない内容で、さらっと読むことができました。ただ、二葉の言動はどうも男の子らしくないというか、あまりに女性的すぎる気がしました。

作者の坂木司さんは覆面作家で、性別などは公開されていません。でも、この本やこれまでに読んできた坂木さんの本を思い返すと、作者は女性ではないのかなあと思えました。
和菓子のアン坂木司さんの「和菓子のアン」を読み終えました。

もうすぐ高校を卒業する梅本杏子は、将来の進路で迷っていました。大学に進んで勉強したいほどの意欲もなく、学費で家計の負担になりたくありません。かといって、何かやりたい仕事があるわけでもありません。
そんな彼女が出会ったのは、デパ地下に出店していた和菓子屋さんでした。もともとちょっと小太りで食べるのが好きな杏子は、そこで働くことを決めたのでした。

初めて触れる和菓子の世界は、知らないことがいっぱいです。しかし、しっかり者でギャンブル好きな椿店長、和菓子職人見習いで乙女な心の持ち主の立花さん、元ヤンの女子大生・桜井さんと個性的な面々が揃っています。そして杏子は、乙女な立花さんからアンちゃんと呼ばれるようになるのでした。
こんなデパ地下のお店で起きる日常のちょっとした事件を、みんなで推理するお話でした。

文体はかなり軽めのラノベ風ですが、小太りで美人ではないけれど、前向きで真面目な杏子は、将来とってもいいお母さんになりそうな素敵なキャラです。そしてお話の方も、ちょっとした推理あり、和菓子の蘊蓄あり、デパ地下商店の知られざる裏側紹介あり、食品に対する問題提起ありと、バラエティに富んでいて楽しかったです。
ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第3弾です。

今回は、前巻で明らかになった栞子さんのお母さんがどんな人だったのか、少しずつ見えてくるようなお話でした。
第1話では、古本市に参加したビブリア古書堂がトラブルに巻き込まれるお話でした。登場する作品は、ロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」です。ヤングの作品は、「ジョナサンと宇宙クジラ」くらいしか読んだことがありませんが、「たんぽぽ娘」というタイトルはなぜか覚えていました。この機会に読んでみたいな〜と思ったのですが、コバルト文庫で出版されたもの以外も全て絶版。それなら図書館でと思ったら、地元の図書館ではこちらも本が見つかりませんでした。(;_;) かなり有名な作品のようですので、海外SF作家のアンソロジーを出すことがあったら、この作品も収録して欲しいです。

第2話では、前巻で事件を解決したお客さんから再び依頼を受けることになりました。それはおぼろげにしか内容を覚えていない本を探し出すというものでした。実際、私自身も昔読んだことがある本だけれど、タイトルや作者名を忘れてしまったものがあったりしますので、こういうアバウトな依頼で本を探し出してもらえたらうれしいな〜と思いました。

第3話では、宮沢賢治の「春と修羅」が登場します。宮沢賢治の本や全集はあちこちから出ていますが、生前に出版された本は2冊だけで、それ以外の作品は執筆後も作者が推敲を重ねて内容が異なるものが多数存在することは初めて知りました。

物語全体を見ると、暗いトーンの話が多くて今ひとつ楽しめませんでした。貴重な本がいろいろと登場するので、推理物にしようとすると、盗難がらみのお話が多くなってしまうのはわかりますが、もう少し後味のいいお話だったらいいのになあと思いました。

「あとがき」を読むと、作者はもう既に第4巻に取りかかられているそうですので、次はどんなお話になるのか今から楽しみです。そうそう。1つ気になったのは、作中で取り上げられた人物が、ビブリア古書堂の常連さんとして再登場するのはいいのですが、出てきた時に主人公たちにとっては顔なじみでも、読者としては忘れてしまっていたりするので、もう少し登場した時の経緯を作中で説明して欲しいと思いました。
瑠璃の契り―旗師・冬狐堂 (文春文庫)北森鴻さんの旗師・冬狐堂シリーズ第4弾、「瑠璃の契り」を読み終えました。

今作では、4本の短編が収録されていました。「倣雛心中」では、何度販売しても売り主の元に戻ってくる人形が、「苦い狐」では陶子が絵画制作に見切りをつけた経緯が、「瑠璃の契り」では陶子の親友・横尾硝子にまつわるお話、「黒髪のクピド」では久々に陶子の元旦那・プロフェッサーDが登場しました。

どの作品も古物にまつわる豊富な知識と、その背後に広がる闇が感じられて面白かったです。このシリーズ、面白いのでもっと続きが読みたいと思ったのですが、残念ながら作者の北森鴻さんは2010年に亡くなられていました。
まだ48歳という若さだったそうで、もっと長生きして冬狐堂の活躍を読ませて欲しかったです。(;_;)

北森さんには、冬狐堂シリーズにも登場した民俗学者・蓮丈那智が登場するシリーズもあるようなので、機会があればそちらも読んでみたいと思いました。
贖罪 (ミステリ・フロンティア)湊かなえさんの「贖罪」を読み終えました。

とある田舎町の小学校で、1人の少女が惨たらしく殺害されました。犯人の顔を目撃したはずの少女4人は、全員その顔を思い出せないと言います。そんな彼女たちに、母親はひどい言葉を投げつけました。それが原因で、4人の少女は自分たちの運命を大きく狂わせていくことになるのでした。

内容的には、とても陰惨で重いお話でした。4人それぞれに悲惨な運命が待っているので、正直何度も途中で読むのをやめようかと思いました。それでも最後まで読まされてしまったのは、作者の腕でしょうか!?

一応、お話的には推理小説なのでしょうが、謎解きの要素はほとんどありません。順を追って読んでいけば、過去に何が起こったかは容易に察することができるからです。それなりに面白いとは思いましたが、できれば二度と読みたくない本かもしれません。
緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))北森鴻さんの旗師・冬狐堂シリーズ第3弾、「緋友禅」を読み終えました。

前二作は長編でしたが、このシリーズの3作目は短編3本、中編1本からなる作品集でした。
「陶鬼」では萩焼、「『永久笑み』の少女」では埴輪、「緋友禅」ではタペストリー、「奇縁円空」では円空仏が扱われています。例によって、冬狐堂は古物に関わるだけでなく、事件に巻き込まれてしまいます。その謎解きも楽しいですが、それ以上にその過程で語られる古物の蘊蓄が楽しかったです。

短中編集ということで、前二作よりは読みやすかったですが、物語の奥行きという点では、やはり長編の方が味わいがあるなあと思いました。その分、この本では1作1作に技巧が凝らされているような気がしました。
しらない町鏑木蓮さんの「しらない町」を読み終えました。

主人公の門川誠一は、映画監督を夢見て故郷の島根から出てきました。一度は東京に出てがんばったものの、そこでの人間関係がうまくいかず、大阪へと移り住みました。映画監督への夢は失っていないものの、今ではアパート管理のバイトと夜間警備のバイトで食いつないでいます。

ある日、門川は自分が管理するアパートの住人・帯屋が亡くなっているのを発見しました。一人暮らしの帯屋は、誰にも知られることなく、一人で亡くなっていたのでした。帯屋の遺品の整理を任された門川は、その中に8ミリフィルムがあるのを見つけました。それは帯屋が昔撮ったものでした。その8ミリを見た門川は、そこに映し出されていた行商の女性に惹きつけられるものを感じました。

その8ミリに触発された門川は、帯屋の生き様を追ったドキュメンタリーを撮影しようと思います。しかし、帯屋の生活は謎が多く、どんな生活をしていたのかなかなかわかりません。帯屋の戦友である老人とも出会いましたが、彼らは門川が帯屋の過去を追うことを止めようとします。それでも門川は、なんとか帯屋の真相に近づこうとするのでした。

お話自体はややミステリー仕立てですが、謎解きを楽しむというよりは、門川の行動を追って次にどんな事実が明かされるのかを楽しむといった感じでした。作品の中で大きなテーマとなっているのが、老人の孤独死です。今世間で言われている孤独死、それは本当に寂しいものなのか。作者はあたたかな目で、その問題を別の視点から考えさせてくれました。
狐闇 (講談社文庫)先日読み終えた北森鴻さんの冬狐堂を主人公にした作品に続編があると知って、読んでみました。

前作でも贋作事件に巻き込まれた陶子でしたが、今回はある事件に関わったことをきっかけに古物商としての鑑札を奪われる事態になってしまいました。
全てのことの起こりは、陶子がとある市で青銅鏡を手に入れたことから始まります。その一風変わった青銅鏡に、陶子は魅せられてしまいました。しかし、その青銅鏡がとある屋敷から持ち出されたものだと知って、それを返却せざるを得なくなりました。

その直後、陶子は青銅鏡に関わっていた人物の策略により、絵画の贋作を作ろうとしていたと疑われます。その上、飲酒運転で事故を起こしたことにまでされて、古物商の証である鑑札を剥奪されてしまったのでした。
しかし、簡単に泣き寝入りするような陶子ではありません。自分を陥れた者への反撃を開始したのでした。

今作は前作と比べると、話が歴史的に飛躍していて、殺人事件は起きるものの推理小説というよりは、歴史ミステリーといった感じの作品でした。古代の物部氏と蘇我氏の争い、明治政府の陰謀など、過去の出来事もいろいろと絡んで、かなり複雑なお話でした。
個人的には、古物商としての陶子の活躍に期待していたので、ちょっと肩すかしな感じでした。
硝子のハンマー先に読んだ「悪の教典」が面白かったので、同じ貴志祐介さんの「硝子のハンマー」を読んでみました。

物語は2部構成でした。第1部では、監視カメラや暗証番号付きエレベータなどで保護された社長室で、社長の穎原が頭部を撲殺されました。しかし監視カメラには侵入者の映像はなく、唯一の社長室へのルートは専務室からの扉だけでした。弁護士の青砥純子は、警察から犯人と疑われた専務の久永の弁護を引き受けました。しかし、いろいろと調べてもどうしても密室殺人の謎を解くことができないのでした。

そこで純子は、知人から教えられた防犯の専門家を訪ねました。榎本というその男は、防犯やセキュリティに関わる商品を販売したり相談に乗っているプロでした。しかし、その正体は泥棒だったのでした。
そんな純子と榎本は、コンビを組んで密室の謎に挑みます。しかし、あれこれ試行錯誤を重ねても、どうしても密室の謎を解き明かせないのでした。

第1部は、そんな榎本が事件解決の糸口をつかんだところで終わります。そして第2部では、真犯人の側から、どうやって事件を起こしたのかが、その生い立ちと共に語られます。椎名章の家は元々はたいへんな資産家でした。しかし、父親がおろかだったために資産を食いつぶしてしまい、ヤクザから借金の返済を迫られています。ヤクザから逃れるため、章は偽の戸籍を手に入れて、別人として生きざるを得なくなりました。

そんな章は、ふとしたことからこの苦しい窮状を抜け出すチャンスを得たのでした。そのチャンスを生かす手段として、今回の密室殺人を計画するのでした。あまり詳しく書いてしまうとネタバレになってしまいますので詳しいことは書けませんが、章は驚くべき大胆さと緻密な計画で殺人を成功させるのでした。

2部構成の物語でしたが、個人的に楽しめたのは第2部の方でした。ヤクザに追われて逃げ回る章が、図書館やネットで知識を得て新たな生活を始める部分がリアリティがあって面白かったです。それに比べて、第1部の純子と榎本の調査は、やや単調で機械的な感じで今ひとつ共感できるものがありませんでした。
狐罠 (講談社文庫)北森鴻さんの「狐罠」を読み終えました。

このところ「ビブリア古書堂の事件手帖」や「万能鑑定士Qの事件簿」を読んでいるせいで、古物や鑑定について興味が出てきました。そんな時、北森鴻さんのこの小説と出会いました。
主人公の宇佐見陶子は、旗師と呼ばれる店舗を持たない骨董商です。そんな陶子は、橘薫堂の目利き殺しにあって偽物の唐様切子紺碧碗をつかまされてしまいました。しかし陶子は、このまま引き下がるつもりはありません。逆に橘薫堂の橘秀曳に目利き殺しを仕掛けようと目論むのでした。

そのためには、腕のいい贋作者が必要です。元夫のプロフェッサーDから凄腕の贋作者を紹介された陶子は、その贋作者・潮見老人に頼んで、一世一代の贋作を作り出すのでした。陶子がリベンジを果たそうとする一方、橘薫堂では外商をつとめる田倉俊子が何者かに殺害されていました。捜査に当たる根岸と四阿の刑事コンビは、骨董売買という不可解な世界を相手に、真相を探り出そうとするのでした。

一応、推理小説ということで殺人事件が起きたりしますが、それよりも陶子が関わっている骨董業界の様子や贋作作りの描写が面白かったです。特に科学鑑定で贋作だと見破られないために、贋作者がいろいろと技を使うところが新鮮でした。この願作物、本物ではないかもしれませんが、そこに注ぎ込まれた情熱は本物と同じような価値を持っているのではないかと感じました。
ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ、第2巻を読み終えました。

前巻では、大輔と栞子さんとの出会いが描かれましたが、今回は栞子さんの家庭事情に触れる内容でした。
第1話では、栞子さんが小菅奈緒の妹が書いたという感想文の秘密を解き明かします。ここで題材にされているのは、古典SF「時計仕掛けのオレンジ」でした。そういえば、第1巻でも栞子さんは2冊のサンリオSF文庫を読んでいましたし、意外とSF好きなんでしょうかね!?(^^;

第2話では、大輔の元彼女・晶穂が登場しました。第1話の冒頭が伏線になっていたりして、物語としてはこの第2話が一番面白かったです。

そして第3話では、栞子さんのお母さんの過去が明かされました。離婚して家から出てしまったお母さんですが、栞子さんと同じように、優れた洞察力の持ち主でした。今回はお母さんのことは紹介程度でしたが、いずれこの先のお話で本人が登場することもあるのでしょうか。栞子さんとの推理対決が見られたりすると楽しいですね。

第3話でうれしかったのは、藤子不二雄さんの最初期の名作「UTOPIA 最後の世界大戦」が登場したことです。私自身、昔から藤子不二雄さんの作品が好きでいろいろと読んでいますので、興味を持って読むことができました。この「最後の世界大戦」、さすがにオリジナルは目にしたことがありませんが、藤子不二雄ランドで復刊された時に購入しました。そうそう。現在刊行中の藤子・F・不二雄全集にも収録予定になっていますね。また小学館からは、少し割高ですが、本の表紙なども発売当時のままに復刻した復刻版が発売されています。

作品中での「UTOPIA」の説明でちょっと気になったのは、栞子さんはこの作品が手塚先生の紹介で単行本執筆の依頼が来たと言っていますが、これは完成原稿を手塚先生に預けたの誤りですね。
藤子不二雄さんの自伝的なマンガ「まんが道」などを読むと、長編を新人が雑誌に掲載してもらうのは難しいからと、手塚先生が原稿を預かり出版社に紹介するというやり取りが描かれています。Wikipediaの「UTOPIA 最後の世界大戦」にも同じ記述がありますので、この部分はもう少し調べて欲しかったなあと思いました。
もっとも、栞子さんがマンガの古書には詳しくないことを描写するために、わざと間違った説明をさせたという可能性もありますが・・・。

ということで、第2巻も楽しむことができました。この本を読んだおかげで、さらに読書に力が入りそうです!
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)本好きにはお勧めという話を聞いて、三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~」を読んでみました。

主人公の五浦大輔は、会社が倒産してしまって現在は無職です。過去のトラウマが原因なのか、彼は本を読むことが苦手です。そんな彼がふとしたことで、北鎌倉にあるビブリア古書堂という古本屋に祖母の残した本を持ち込むことになりました。ところが、そのお店の店主はケガをして病院に入院中でした。病院でもいいなら、そこで本の査定をしてくれることになり大輔は栞子の入院している病院に訪れたのでした。

父親から店を引き継いだという栞子は、かなりの本好きでおとなしい女性でした。古本屋という接客業をしているにも関わらず、初対面の人間と話すとしどろもどろになってしまう有様です。ところが、そんな彼女も、こと話が本のこととなると、それまでとは別人のように流ちょうに話し出すのでした。
そこで本を査定してもらったことで、大輔は栞子の推理で隠されていた祖母の秘密を知ることになりました。そして、これが縁となって大輔はビブリア古書堂で働き始めることになったのでした。

この本には、大輔が祖母の漱石全集を鑑定してもらい栞子と知り合う第1話から始まり、4つの事件が収録されています。1つ1つの事件は独立しているように見えましたが、最後に1つの話となって形になったのは驚きました。栞子は古本の状態や持ち主の話を聞いただけで、全てを見通してしまう推理力の持ち主です。でも、この作品はミステリーとして楽しむよりも(謎解きはそれほど難解ではありません)、本に対する愛情を感じ取る本のような気がしました。

実際、この本を読んでいたら、そこで紹介されている本を読んでみたくなってしまいました。部屋にはまだ読んでない積ん読の山や読みかけの本がたくさんあるというのに、困ったものです。(^^;
隻眼の少女摩耶雄嵩さんの「隻眼の少女」を読み終えました。

立て続けに両親を失った種田静馬は、自殺するために寂れた村へとやって来ました。そこで静馬は、まるで陰陽師のような格好をした美少女と出会いました。彼女は、名探偵として警察の中でも知れ渡っている御陵みかげの後継者だったのです。母と同じく御陵みかげと名乗るその少女のツンツンぶりは、推理小説のキャラというよりは、アニメのツンデレ巫女少女といった感じでした。(^^;

その村にはスガル様という生神様を信仰する宗教が今も村の生活を支配していました。そんな村で、次期スガル様である15歳の少女が殺害されました。その事件を捜査するために、みかげは静馬と共にスガル様の本拠である琴折家へと乗り込むのでした。

しかし、みかげの奮闘もむなしく、第2、第3の事件が起きてしまいます。それでも何とかみかげは、事件の真相を解き明かすのでした。普通ならこれで終わりなのでしょうが、この小説は1985年を舞台とする第1部と、18年後の2003年を舞台とする第2部へと続きます。

いろいろと書きたいことはあるのですが、ネタバレしてしまうと物語を読む楽しみと驚きがなくなってしまいますので、内容の紹介はこれくらいにしたいと思います。
正直いってトリックや動機はかなり乱暴な気がしますが、意外性という点では面白い物語だったと思います。
新装版 46番目の密室 (講談社文庫)有栖川有栖さんの「46番目の密室」を読み終えました。

この作品は、これまで読んできた有栖川さんのシリーズとは違い、作家であるアリスを主人公とした新たなシリーズでした。大学生のアリスが登場するシリーズは、この作品の作家であるアリスが書いた物語というつながりがあるようです。

この作品で探偵役を務めるのは、大学で犯罪社会学を教えている火村英生助教授です。火村とアリスは学生時代からのつきあいらしいです。そんな2人は、日本のディクスン・カーと呼ばれる推理小説の大御所、真壁聖一の別荘で行われるクリスマス・パーティーに招待されました。そこには彼らの他に、推理作家や編集者たちも呼ばれてやって来ています。

楽しいクリスマスになるかと思いきや、アリスたちは別荘の側で不審な男性を目撃します。そうこうするうちに、別荘の主である真壁が密室で殺害されるという事件が発生しました。おまけに、書斎ではアリスたちがみかけた不審な男が、真壁と同じように密室で殺害されていました。
いったい犯人は誰で、どんな方法で2人を殺害したのか!? 警察とも関わりのある火村は、アリスを助手に事件の捜査に乗り出すことになったのでした。

先に「双頭の悪魔」や「女王国の城」を読んでいるからかもしれませんが、それらの大作と比べるとこの作品には物足りないものを感じました。事件自体も今ひとつ魅力に欠けましたし、その謎解きもあっと驚く感動があるものではありませんでした。
このシリーズも学生のアリスを主人公にした作品と同様、この先のシリーズも読み続ければ内容が充実してくるのでしょうか!?
放課後探偵団 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)相沢沙呼さん、市井豊さん、鵜林伸也さん、梓崎優さん、似鳥鶏さんによる書き下ろし学園ミステリー・アンソロジー、「放課後探偵団」を読み終えました。

新人作家さん5人の競作ということで、この先期待の作家さんを探すつもりで楽しく読みました。
似鳥さんは「お届け先には不思議を添えて」を発表されました。これは先に発表されている似鳥さんのシリーズ・キャラクターが登場する短編の1つです。発送されたビデオテープが、なぜか別のものとすり替えられていた謎に主人公たちが挑戦するのですが、キャラはいい感じでしたが、トリックと動機が少し弱いような気がしました。

鵜林さんは「ボールがない」です。これは野球部の練習中に消えてしまったボールを、主人公たちが探し回りつつ、どこにあるのかを推理するお話でした。ボールを探す、そんな単純なことでも事件として物語が成立してしまうのは、作者の力量だと思います。ただ、基本的にはボールがなくなっただけの話なので、あまり驚きはありませんでした。

相沢さんは「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」です。これはバレンタインデーを巡るお話に、マジックが組み合わされていたのが新鮮でした。登場するキャラも魅力的でしたし、この先どんな作品を書かれるのか楽しみになりました。ただ、文体があまりにくだけすぎていて、ライトノベルが苦手な人には敬遠されそう・・・。

市井さんは「横槍ワイン」です。似鳥さんと同じく、先に発表された作品のキャラを使っての作品でした。映画同好会が作った映画の試写会に招かれた主人公は、そこで誰かが同席した女性にワインをかけた謎に挑むことになりました。
キャラや物語の雰囲気は悪くないですが、ちょっと事件のスケールが小さすぎる気がしました。

梓崎さんは「スプリング・ハズ・カム」です。15年ぶりに同窓会に集まった主人公が、15年前の卒業式で起きた放送室ジャック事件に挑みます。学園ミステリなのに、あえて学生ではなく、同窓会からスタートさせた意外性がよかったです。事件の謎解きは少し機械的な感じがしましたが、小説としてはとてもよくできていると思います。
おやすみラフマニノフ (『このミス』大賞シリーズ)中山七里さんの「おやすみラフマニノフ」を読み終えました。

前作「さよならドビュッシー」に続いての音楽ものでした。探偵役は、前作と同じくピアニストの岬洋介です。

物語の主人公は、愛知音大のヴァイオリン奏者・城戸 晶です。彼は私生児として生まれ、母子家庭で育ちながらも、苦労して音楽の道を歩いています。晶は学費を滞納するほど貧窮していましたが、そんな彼にチャンスが訪れました。
学長であり、世界的に有名なピアニストとして知られている柘植彰良と共に、秋の演奏会でオケのコンサートマスターを務めることになったのです。

そんな中、事件は起こりました。警戒厳重な保管室から、ストラディバリウスのチェロが何者かによって盗まれたのです。さらに追い打ちをかけるように、学長専用のピアノに水がかけられて使い物にならなくなる事件も起きました。しかし、理事会はここまで事態が進展しても、警察の介入を許そうとはしません。
そして、とうとう学校の掲示板には演奏会当日に学長を殺害するという犯行予告までが投稿されたのです。
いったい犯人は何者で、何のために演奏会を妨害しようとしているのでしょうか!?

という感じの推理小説ではあるのですが、この小説の面白さは犯人探しや奇想天外なトリックにはありません。
それよりも、音楽という狭き門の中で、なんとかその道を自分の生きる道にしようとあがく学生たちの青春小説としての方が読み応えがありました。

この作品は単体でも楽しめますが、「さよならドビュッシー」を読んでいると、そちらに登場した人物がこの作品にも顔を出していて懐かしい気分に浸ることができました。もしできれば、先に「さよならドビュッシー」を読んでからこちらを読まれた方が、読書の楽しみがさらに広がると思います。
女王国の城 (創元クライム・クラブ)有栖川有栖さんの「女王国の城」を読み終えました。

アリスたちの前から、推理小説研究会の部長・江神さんが姿を消してしまいました。部屋に残された情報から、部長が神倉という場所へ向かったことを知ったアリスたちは、推理小説研究会のいつものメンバーで江神さんの後を追ったのでした。

その神倉は、UF0でやって来た宇宙人が人類に救済をもたらすという教えを信じる"人類協会"という宗教団体が大きな力を持っていました。街の住人の多くがその団体の関係者であるばかりか、街には高名な建築家に依頼して近未来の建物のような協会本部まで建っているのです。

どうやら江神さんはその"城"へ向かったらしいとわかったものの、アリスたちが本部を訪れても江神さんと面会することすらできません。それでも、ようやく江神と合流できたと思いきや、今度は本部内で殺人事件が発生してアリスたちは本部から出られなくなってしまったのでした。

アリスたちは、早急に警察を呼ぶべきだと主張しますが、協会の幹部にはそれは受け入れられません。そうこうするうちに、第2、第3の殺人事件まで起きてしまうのでした。おまけに、アリスたちが集めてきた情報では、11年前にもこの地では、暴力団関係者が密室で殺害されるという事件が起きていました。その犯人も凶器も、いまだに行方不明なのです。

世間と隔絶された、ちょっとした不思議の国に迷い込んでしまったアリスたちは、ここから脱出しようと苦心する一方で、殺人事件の真相を解き明かそうとするのでした。
そして、いつものごとくついに江神さんの推理によって、事件の真相が明かされたのでした。

ハードカバー二段組みで500ページ以上という大作でしたので、読むのにはかなり苦労しました。これまでのシリーズと同じく、アリスたちは殺人事件の現場で周囲から孤絶してしまいます。そんな中での協会の異常な行動は、なんだか言葉が通じない不思議の国のようでした。こんな状況で推理小説が成立するのかと心配になりましたが、最後にはちゃんと謎解きがされてほっとしました。

このシリーズ、かなり長期間にわたって書き続けられてきたようですが、一応作者の予定では最後の長編になるという次回作は、いったいいつごろ発表されるんでしょうね。