日々の記録

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ボート (新潮クレスト・ブックス)ナム・リーさんの「ボート」を読み終えました。

この本には、7作の短編が収録されています。しかし、その1つ1つが個性的で、複数の作家が書いた作品を集めた本なのではないかと何度も思いました。そして物語の舞台も、北米、オーストラリア、南米、中東、日本、東南アジアと多彩です。

「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」は、ベトナム移民で作家志望の青年とその父の物語です。主人公の青年は、作品を書きあぐねていました。彼の出自を知る人は、それをテーマに作品を書けばいいといいます。しかし、彼はそうすることに抵抗を感じていました。彼は父ほどに深く、ベトナムとのつながりを実感できないでいたのです。

そこに、彼の父がやって来ました。その時、彼は書きあぐねた末に、ベトナムを扱った作品を書き上げました。彼の父はその作品を手に、街へと出向くと、浮浪者が暖を取っていたたき火に、その作品を投げ込むのでした。
短い作品ですが、故郷を知らない青年と、異郷にあっても故郷を背負っている父の、深い断絶が印象的でした。

「カルタヘナ」は、コロンビアで暗殺者となった少年を描いた作品です。前の作品とは完全に雰囲気が変わり、ハードボイルドなサスペンス小説を読んでいるような感じでした。7作の中では、この作品が一番読みやすいと思いました。

「エリーゼに会う」は、痔を患う老画家が、妻と一緒に家を出た娘と再会しようとする物語です。老画家のダメっぷりが、これでもかとばかりに描かれているのですが、サイケデリックな雰囲気もあるブラックな作品でした。

「ハーフリード湾」は、オーストラリアに住む少年が主人公のお話です。彼の活躍によって、彼の学校は久々にフットボールの決勝戦に進むことができたのです。彼は一躍注目の的となり、憧れていた女の子も彼に声をかけてきます。ところが、その女の子は、悪評が高く凶暴な同級生と付き合っているという噂が・・・。

その一方で、少年の家庭事情も描かれます。彼の母は、多発性硬化症という難病に冒されていたのです。母の治療のため、父は今の家を売り、よりよい治療が受けられる場所への移住を考えていました。
同級生からの暴力の恐怖、難病の母を抱えた不安定な生活。物語は淡々と語れていきますが、この2つがあることで緊張感が維持されています。

「ヒロシマ」は、なんと原爆投下前の広島を舞台にした作品です。主人公の女の子は、戦災を避けて疎開していますが、彼女の父母と姉は、今も広島に暮らしています。主人公の女の子も、そしてそれ以上にお姉さんも、徹底的に軍国主義に染まっています。著者名を伏せてこの作品を読んだら、海外の作家が書いたものとは思わなかったかも。

「テヘラン・コーリング」は、付き合っている男から逃げるために、テヘランの友人の元に訪れるアメリカ人女性の物語です。そこで彼女は(そしてたぶん読者も)、これまで知らなかった自分たちとは全く異質なイスラム文化と対面することになります。

表題作である「ボート」は、ベトナムから脱出する難民ボートに乗り込んだ女の子の物語です。小さなボートに詰め込まれるように乗り込んだ、多くの人々。エンジンも停止し、ボートは海上を漂い、その渦中で1人また1人と命を落としていく人がいます。これは今もまだ、世界のどこかで現実に起きているかもしれないこと。そう気づいた時、今の自分がどれほど豊かでふやけた世界にいるかを思い知らされました。

著者のこの他の作品は、邦訳が出ていないようですが、ぜひ他の作品も出版して欲しいと思いました。












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